
元刑事ママが教える!子どもを守る「声かけ」撃退術
「ただいまー!」玄関から聞こえる子どもの元気な声。私たち親がホッとする瞬間。
残念ながらその「当たり前」の日常、本当に安全だと言い切れないのが現状です。
いくら防犯対策をしていても、やはりどこかで不安は残ります。元刑事の私ですら毎日防犯のことを考え、思いつく対策をしていてもやはり心配は尽きません。
警察庁の資料によると、誘拐・連れ去り事案の発生が多い時間帯は、小・中学生の場合15時から18時の夕方の時間帯がもっとも多発しています。[a] 暗くなるのが早い冬の時間帯は特に気をつけてほしいと思います。
執筆 元警察官 安井かなえ
声かけ犯罪の現状

私はいま、小学生と幼児を育てています。独身の頃は警察官として刑事課で働いていました。子どもが被害に遭うのは本当に心が痛みます。自分が親になってから、その思いがさらに強くなりました。
最近の子どもを狙った犯罪の動向に大変な危機感を感じています。特に、声かけ犯罪はかつて問題視されていましたが、依然として後を絶たず、声かけの手口も巧妙化しています。
警察庁の統計によると、犯罪に起因する事犯、たとえばSNSを利用した誘い出しや、公衆の面前での声かけなど、犯罪手口も巧妙化しています。子どもの安全を脅かす事件が後を絶たない中、私たち保護者ができることは何か、しっかりと考える必要があります。
最近の子どもを狙った犯罪の傾向

最近では、SNSやメッセージアプリを使って子どもたちをだます事案が後を絶ちません。
親切そうな言葉で子どもを信頼させ、実際に会おうと誘いかけてきます。
子どもたちは、知らない人がやさしく話しかけても、絶対に信用してはいけないと教えてあげましょう。特に、インターネット上で出会った優しくしてくれる「おにいさん」や「おねえさん」との直接の面会は危険です。
子どもたちには、見知らぬ人と連絡を取ったり会ったりしないよう、しっかりと教える必要があります。保護者は子どもたちのネット利用を注意深く見守り、安全を確保することが大切です。
ショッキングな事例の紹介

私が警察官時代に遭遇した一つの事例を紹介します。2014年、埼玉県朝霞市の女の子が男に名前を呼ばれ声をかけられ、連れ去られたという事件をご存知でしょうか。約10日後には「迷惑かけてごめんなさい」との手紙が自宅に届くなど、不可解なことが起こり、公開手配をし、情報提供を呼び掛けていました。なかなか発見に至る情報がなかったものの、約2年後無事に保護されたのです。同僚から被害少女のことを聞いてみると、相当な精神的ダメージを負っていたと話していました。
加害者の男は20代前半でした。男は、少女の家にある傘で名前を確認したと供述しています。名前を書くことでこんなにもリスクがあるのかと当時は衝撃が走りました。
私たちは、子どもを狙う犯罪者の残虐さに本当にショックで、この事件を経験して以来、子どもの安全をどう守るべきか、常に考えるようになりました。
統計データ

声かけ事案とは、18 歳以下の者に対して、犯罪行為にはならないものの、犯罪の前兆になりうる可能性がある事案をいいます。警視庁からの件数の発表はありませんが、令和5年に発生した声かけ事案の件数について、埼玉県警が発表しているデータでは、下校途中の声かけが全体の約65%、子どもが単独のときに声をかけられた件数は約64%でした。高校生の声かけのうち、92%は女子生徒への声かけがあったという統計が出ています。
(※参照元 https://www.police.pref.saitama.lg.jp/documents/912/koekake5nen1.pdf )
路上や公園での声かけ事案が依然として割合が高く、80%を超えています。犯罪者は子どもの好奇心を刺激する言葉を使い、付け加えて「親に内緒にしよう」と言って、子どもを誘い出す手口が一般的です。
日本国内では、令和5年に約9万人が行方不明となり、そのうち18歳未満は15,000人でした。子どもの場合、遊び癖や放浪癖、犯罪被害、事故遭遇の件数も多く、多くの子どもが犯罪に巻き込まれている可能性が指摘されています。
子どもに教えるべき基本的な対策

子どもの安全を守るためには、子どもたち自身が危険を察知し、いざというときに適切に対応できるよう保護者が教育することが大切なのです。
まずは、知らない人からの声かけには絶対に応じないようにしましょう。名前を呼ばれても、信じないことが大切です。また、不審な人物に付きまとわれたり、つぶやきかけられたりした場合は、すぐに保護者や先生に知らせるよう伝えましょう。
不審な人は、見た目では判断ができないことがほとんどです。よくあるサングラスをかけたイメージ写真を思い浮かべますが、いかにもあやしい人は実際は少ないと言われています。
さらに、SNSでの出会い系トラブルにも気をつけさせ、知らない人とオフラインで会うことは絶対にやめるよう教えましょう。「ネット上では知り合いだから大丈夫」という気持ちは危険であることを教えてあげてください。
しかし、相手も言葉巧みに子どもを誘い出し、子どもは親に黙って会おうとしてしまうことが残念ながらゼロではありません。「うちの子に限ってそんなことはない」と可能性を考えないのではなく、万が一を考えてカラオケは密室なため「見えにくい場所」として時に危険であることや、遊ぶ場所は複数人や人目のつくような「見えやすい場所」を選ぶように日頃から安全な場所、危険な場所がどのようなところなのかを伝えるようにしましょう。
不審な人物が何か目的があって子どもに近づき交流をする場合、怪しまれないように交流をしてきます。子ども自身が危険を感じた時には手遅れになってしまうこともありますので、まずは危険に近づかせないよう見た目では分からないことや、仲良くなることの意味(「ネット上で何度か交流したから友達」にはならないこと)、危険な場所・安全な場所について、子どもたちに伝えてほしいと思います。
親がすべき日常の防犯対策

子どもの安全を守るには、保護者ができる対策も重要です。まずは、子どもの行動をこまめに把握し、誰と遊んでいるのか、どこに行っているのかを確認する習慣をつけましょう。
また、子どもの通学路や遊び場所を状況に合わせて、随時見直すことも大切です。危険な場所は避けるようにし、安全面で不安のある場所は、保護者が送り迎えするなどの対応をとりましょう。
SNSの使用に関しても、子どもと一緒に利用ルールを決め、保護者が定期的にチェックすることが不可欠です。知らない人とやりとりしていないかなど、子どもの行動を把握し続けることが何よりも大切なのです。
実践的な声かけ対策

子どもの安全を守るために、日ごろから具体的な対処法を一緒に練習しましょう。
誰でも怖い目に遭うのは嫌だけど、特に子どもたちは、いざという時にどうすればいいのか迷ってしまうもの。
例えば、知らない人に「お菓子あげるから一緒に行こう」と言われたら?「ダメです!帰ってください!」と大きな声で叫んで、すぐに逃げる練習。
怖い人が近づいてきたら? 周りの大人に「助けてー!」と大声で助けを求める練習。
遊び感覚で、色々な場面を想定して練習しておけば、いざという時にも落ち着いて行動できるようになります。日頃から習慣づけることが大切です。
まとめ

私は、かつて刑事として犯罪と向き合ってきました。その経験から、今日でもあとを絶たない声かけが犯罪のきっかけになる深刻な現状に大変な危機感を感じています。
最近では、SNSを悪用した誘い出しや、公の場での声かけなど、犯罪手口の巧妙化が進んでいます。こうした中、私たち保護者ができることは、子どもたちに基本的な防犯対策を身につけさせ、日頃から無理なく安全確保に努めてもらうことです。
一人一人の子どもの命を守るため、私たち大人ができることから始めていきましょう。決して憂慮すべき事態を受け入れるのではなく、子どもたちの安全を最優先に、粘り強く取り組んでいきたいと思います。

安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。