
子どもが非行に走るとき、家庭で何が起きているのか
7月は、こども家庭庁などが定める「青少年の被害・非行防止全国強調月間」です。
「非行」と聞くと、特別な家庭や子どもの問題だと思われがちですが、決してそうではありません。
警察庁の統計によると、令和7年に刑法犯として検挙・補導された少年(※ここでいう「少年」は、少年法で定められた20歳未満の人を指します) は20万663人で、前年より8,837人(4.6%)増加しました。少年非行は長期的には減少傾向にあるものの、今も多くの子どもたちが問題行動や犯罪に関わっている現実があります。
だからこそ大切なのは、「問題が起きてから」ではなく、「その前のサイン」に気づくことです。
この記事では、子どもが非行に向かう背景や家庭で起きている変化、保護者ができる関わり方について、元刑事の視点から解説します。
監修 元警察官 安井かなえ
目次
非行は突然始まるものではない

非行というと、万引きや深夜徘徊、飲酒などの問題行動を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、そうした行動の多くは、ある日突然始まるわけではありません。
非行に関わった子どもたちの多くは、その前に少しずつ生活や行動に変化が現れています。帰宅時間が遅くなったり、家族との会話が減ったり、約束を守らなくなったりと、一見すると成長過程でも見られるような変化から始まるケースもあります。
また、問題行動そのものより先に、学校や家庭での様子に変化が見られることもあります。学校への関心が薄れたり、勉強や部活動に意欲を示さなくなったり、夜更かしが増えて生活リズムが乱れたりすることがあります。表情が暗くなったり、イライラしやすくなったりするなど、気持ちの面に変化が現れるケースもあります。
もちろん、こうした変化がすべて非行につながるわけではありません。思春期には誰にでも起こりうるものです。しかし、複数の変化が重なったり、それまでとは明らかに様子が違ったりするときは、子どもが何らかの悩みやストレスを抱えているサインかもしれません。
大切なのは、「問題を起こしたかどうか」だけを見るのではなく、その前に起きている変化にも目を向けることです。非行は突然始まるものではなく、小さな変化の積み重ねの中で進んでいくことが多いからです。
元刑事が見てきた「非行につながりやすい環境」

家庭に居場所がなくなっている
非行に関わった子どもたちの話を聞くと、「家が嫌だった」「家にいても落ち着かなかった」と振り返る子どももいます。
もちろん、どの家庭にも親子げんかや意見の違いはあります。しかし、何を話しても否定される、失敗すると叱られる、自分の気持ちを聞いてもらえないという状態が続くと、子どもは少しずつ家庭の中に安心できる居場所を感じられなくなってしまいます。
家庭は本来、子どもが安心して過ごせる場所です。その安心感が失われると、子どもは別の場所に居場所を求めるようになることがあります。
大人との関わりが減っている
近年は共働き家庭の増加などもあり、子どもが一人で過ごす時間が長くなることもあります。
もちろん、一人で過ごすこと自体が問題ではありません。しかし、困ったときや悩みを抱えたときに相談できる大人が身近にいない状態は、子どもにとって大きな不安につながります。学校で嫌なことがあったとき、友人関係で悩んだとき、誰にも相談できないまま問題を抱え込んでしまう子どももいます。
子どもにとって大切なのは、常に一緒にいる大人ではなく、「困ったときに頼れる大人」がいることなのです。
承認欲求の行き場がない
多くの子どもたちに共通しているのが、「認められたい」「必要とされたい」という気持ちです。
仲間が欲しい。自分を分かってほしい。誰かに必要とされたい。こうした思いは、成長していく中で誰もが持つ自然な感情です。しかし、その気持ちが家庭や学校で満たされないとき、別の場所に居場所を求めることがあります。
家庭でも学校でも評価されない。頑張っても認めてもらえない。そんな状況の中で、「お前すごいな」「一緒にいよう」と声をかけてくれる仲間の存在は、とても魅力的に映ります。
たとえその相手が問題のあるグループだったとしても、子どもにとっては「初めて自分を受け入れてくれた存在」に感じられることがあります。
実際に、2015年に発生した川崎市中1男子生徒殺害事件では、少年グループとの関係性や居場所の問題が大きく注目されました。もちろん、すべてのケースが同じではありません。しかし、子どもが「仲間とのつながり」を強く求めるあまり、問題のある交友関係から離れられなくなってしまうことはあります。
非行の背景には、「悪いことがしたい」という気持ちよりも、「認められたい」「居場所が欲しい」という思いが隠れているケースが少なくありません。だからこそ、子どもの行動だけを見るのではなく、その背景にある気持ちにも目を向けることが大切です。
子どもはなぜ非行グループに引き寄せられるのか

最初は軽い誘いから始まる
非行グループとの関わりは、最初から犯罪行為に誘われるわけではありません。
一緒に遊ぶようになったり、SNSで知り合ったり、先輩に声をかけられたりと、ごく自然な関わりから始まることがほとんどです。
「遊びに来ない?」「みんなで集まっているだけだよ」そんな軽い誘いの中で関係が深まり、少しずつそのグループとの時間が増えていきます。
子ども自身も、「危ないことをしている」という意識を持たないまま関係を深めてしまうことがあります。
気づいた時には抜け出しにくくなる
関係が深まると、そこには強い仲間意識が生まれます。
一緒に過ごした時間や共有した秘密が増えることで、「この仲間を裏切れない」という気持ちが強くなっていきます。
また、「みんなやっているから大丈夫」「断ったら仲間外れにされるかもしれない」といった同調圧力も加わります。その結果、本当は嫌だと思っていても断れなくなったり、問題行動に巻き込まれたりすることがあります。
近年は、SNSをきっかけに闇バイトへ関わってしまう少年事件も相次いでいます。みなさんの記憶にも新しい、2026年5月に発生した栃木県上三川町の強盗殺人事件では、16歳の高校生らが実行役として逮捕されました。報道によると、友人関係を通じて関与が広がった可能性も指摘されています。
最初は軽い誘いや興味本位だったとしても、一度関係ができると断りづらくなり、気づいたときには抜け出せなくなってしまうケースもあります。
だからこそ大切なのは、子どもが問題のあるグループに入ってしまってから対応するのではなく、その前の段階で「安心できる居場所」や「信頼できる大人との関係」を作っておくことです。家庭や学校、地域の中に自分の居場所があれば、非行グループだけが唯一の居場所になることを防ぐことができます。
家庭で見逃したくないサイン

子どもが非行に向かうとき、必ずしも分かりやすい問題行動が現れるとは限りません。その前に、日常生活の中で小さな変化が見られることがあります。
たとえば、これまでより帰宅時間が遅くなったり、持ち物や服装の好みが急に変わったりすることがあります。また、お小遣いの使い方が変わったり、スマホを極端に見せたがらなくなったり、学校の出来事をほとんど話さなくなったりすることもあります。
こうした変化は、交友関係や生活環境が変わっているサインかもしれません。しかし、だからといってすぐに「非行だ」と決めつけるのは避けたいところです。
思春期には、自立心が育つことで親との距離を取りたがったり、自分だけの世界を持とうとしたりすることがあります。そのため、同じような変化が成長の過程として現れることも少なくありません。
大切なのは、変化そのものを問題視することではなく、その背景に何があるのかに目を向けることです。
非行を防ぐために家庭でできること

毎日の会話をなくさない
非行予防で大切なのは、子どもとの会話を続けることです。
難しい話をする必要はありません。「今日はどうだった?」「何か楽しかったことあった?」そんな一言から、学校での悩みや友人関係の変化が見えてくることもあります。子どもが話し始めたら、途中で否定したり説教したりせず、まずは最後まで聞くことを意識してみましょう。
結果より過程を認める
子どもは誰かに認められたいと思っています。成績や結果だけでなく、「頑張ったこと」や「挑戦したこと」にも目を向けてみましょう。
努力を認めてもらえる経験は、自己肯定感を育てることにつながります。
SOSを出せる関係をつくる
子どもは、困ったときに必ずしも「助けて」と言葉にできるわけではありません。だからこそ、「何かあっても味方でいるよ」という安心感を普段から伝えておくことが大切です。
失敗したときやトラブルに巻き込まれたときに、真っ先に親へ相談できるかどうかは、その後の対応を大きく左右します。
子どもが安心して帰れる場所であること。それが、非行を防ぐための最も身近で大きな力になります。
まとめ
・非行は突然始まるものではなく、小さな変化の積み重ねの中で進んでいくことがある
・子どもが非行に向かう背景には、「認められたい」「居場所が欲しい」という気持ちが隠れていることもある
・日々の会話や信頼関係が、非行を防ぐための大きな力になる
子どもが非行に向かう背景には、さまざまな悩みやSOSが隠れていることがあります。だからこそ大切なのは、問題行動だけを見るのではなく、その前の小さな変化に気づくことです。
日頃の会話や関わりを通して、子どもが「困ったときは相談できる」と思える関係を築いていくことが、非行を防ぐ第一歩になるのではないでしょうか。
安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。