
子どもの誘拐はどこで起きる?狙われやすい状況と対策
夏休みが近づくと、花火大会や夏祭り、地域のお祭りなど、家族で出かける機会が増えてきます。子どもにとっては、普段とは違う特別な体験ができる楽しい時間でしょう。
しかし、その一方で、こうした夏のイベントには、人混みや慣れない環境ならではの危険も潜んでいます。実際に、子どもの迷子や連れ去り未遂などは、「ほんの少し目を離した隙」に起きてしまうことがあります。
「たくさん人がいるから大丈夫」「うちの子はしっかりしているから大丈夫」。そう思っていても、子どもは楽しい気持ちになるほど警戒心が薄れ、大人もまた、いつも以上に注意が散漫になりやすくなります。
では、夏のイベントではどのような場面に危険が潜み、保護者はどのような対策をしておけばよいのでしょうか。元刑事の視点から、人混みに潜む危険と、家庭でできる具体的な防犯対策をお伝えします。
執筆 元警察官 安井かなえ
目次
夏のイベントに潜む危険とは?

人混みの盲点「みんなが見ている」
花火大会や夏祭りの人混みは、一見すると安心できる場所のように感じますが 、実は危険が隠れてしまいます。
危険な目に遭ったとき、「これだけ人がいれば、誰かが気づくはず」と思われがちですが、実際は大声を出したり、助けを求めたりしない限り気づかないことが多いのです。
大勢の前では責任感が薄れ、多くの人が「誰かが見ているだろう」と考えがちになります。
そのため、人混みは犯人にとっても周囲の目 に紛れやすい絶好の環境になってしまうのです。
親が屋台の支払いで財布を出す瞬間や、写真を撮ろうとスマホに集中した瞬間、そのほんのわずかな隙に、子どもは人の波に溶け込むように、あっという間に見失ってしまうことがあります 。
周囲から見ると、 「親切な大人が迷子の子どもを助けているだけ」にも見えてしまう。人混みの中では、異常な状況が「普通の光景」 に見えるのです。
帰り道こそ、 油断は禁物
イベント会場を離れて数分、賑わいが嘘のように消える道があります。音と光が一気に引くあの瞬間、気持ちも緩み、足元もおぼつかなくなる。楽しい時間が終わり、親も子どもも疲れが出る帰り道は、特に注意が必要です。
疲れた子どもは歩くのが遅くなり、浴衣や下駄を履いている場合はなおさらです。親が少し先を歩き、子どもが数歩後ろをとぼとぼ歩くこの情景、多くの人が経験しているのではないでしょうか。しかし、この「少しだけ離れた距離」 が危ないのです。
暗がりの影、曲がり角、人気のない駐車場脇。華やかな会場の外ではヒヤリとする場面も多くあります。
よく言われている「家に帰るまでがイベント」という認識は本当に大切です。帰り道こそ、視線と歩調を子どもに合わせ、常に視界に入れておくことが、最も大切な防犯対策になります 。
犯人が狙う「隙」と、子どもの心理

狙われる瞬間は?
犯人は行き当たりばったりでは動きません。「いける」と確信したときだけ近づきます。なかでも狙われやすいのは、親の意識が子から離れる瞬間です。
例えば、
・スマホで写真を撮ることに集中しているとき
・食べ物や荷物で両手がふさがっているとき
・下の子の世話に気を取られているとき
・迷子になった子どもが一人でいるとき
こうした場面では、親の反応がわずかに遅れます。その一瞬を、相手は逃しません。
子どもは「優しい大人」を疑えない
多くの保護者は、「優しい子に育ってほしい」と願っています。しかし、その優しさが悪意のある大人に利用されてしまうことがあります。
特に注意したいのが、「困っているふり」をした声かけです。「あっちでスーパーボールをばらまいちゃって、手伝ってくれる?」「迷子の子がいるんだ。一緒に探してくれないかな?」こうした言葉に、子どもは「助けてあげたい」と思うほど、親に知らせずついて行ってしまいます。
また、「怪しい人=見た目が怖い人」という先入観も落とし穴です。よくイメージされがちなサングラスにマスク姿など、不審者らしい不審者は少ないことを覚えておいてください。
にこやかで普通の服装の大人ほど、子どもは疑いません。そのため、「見た目」で判断するのではなく、 「行動の不自然さ」で見抜けるようにするのがポイントになります。
子どもを守るために家庭でできる具体的な対策とは

事前準備|わが家の鉄則と安全対策
我が家で実践している対策として、出発前に玄関で子どもの全身写真を一枚撮っています。
服装・靴 ・小物までしっかり 写すことがポイントです。いざというとき、言葉で説明するより早く、正確に情報を共有できますし、子どもの成長記録としても残ります。
迷子札は「見えない場所」に付けるのが鉄則です。名前や連絡先は、服の内側やカバンの底へ。外から名前が読めると、呼びかけ一つで子どもは「知り合いかも」と錯覚してしまうからです。
実際に、私が埼玉県警の警察官として勤務していた際 、県内で持ち物に書かれた名前を呼ばれたことで、子どもが相手を知っている人だと思い込み、 誘拐された事件もありました。
迷子になった場合のルールはシンプルに、何度も反復練習しておきましょう。
子どもには、「こおり鬼で捕まったときみたいに、その場から動かないでね!」と具体的に伝えています。
動いていい相手は「お店の人」か「警察(交番)」だけ。もし親とはぐれたら明るいお店に入り、店員さんに伝える内容を、家を出る前に短く復唱させるだけで、当日の判断がぶれません。
当日の行動|距離を保つ工夫と 「NO」を言う練習
人混みでは「手をつなぐ」よりも、手首どうしをしっかり持つ、甚平や帯・リュックの持ち手を短く握るなど、簡単には 離れにくい持ち方に変えます。
歩くときは「大人が後ろ、子どもが前」の基本を忘れずに。
視界に子どもの背中を入れ続けると、置いていくリスクが大幅に減ります。
声かけ対策は、基準を一つだけ覚えさせるとぶれません。「大人が本当に困っているなら、大人に助けを求める。子どもに『手伝って』『ついてきて』と言う大人には、ついて行ってはいけない」この一点に絞ります。
断り方と助けの求め方もセットで教えましょう。
・誘われたら一歩下がって「行きません」と断る。
・腕をつかまれたら大声で「助けて!この人、知らない人!」と叫ぶ。
・近くの店に駆け込み店員さんに「迷子です」「助けてください」と伝える。
こうしたやり取りは、 お風呂や家の中で、短時間・繰り返しロールプレイすることが効果的です。
上の子には声かけ対応を任せず、必ず「大人(親)に伝える」役割を徹底します。下の子のベビーカーを押しているときは、上の子に「親の肘かバッグの持ち手を握る」という合図を決めておくと、両手がふさがる場面も乗り切れます。
過保護と思われるくらいでちょうどいいのです。
幼稚園児も小学生も、楽しい気持ちのときほど判断は甘くなります。親が静かに目を光らせ、合図と手順を家族で共有しておくこと。それだけで、犯人は近づきにくくなります。
まとめ
・人混みの中では親の隙が最も危険。帰り道を含め、視線と歩調を子どもに合わせ続ける。
・子どもは「優しい大人」を疑えない心理がある。「困った大人が子どもに助けを求める」という不自然さを見抜く練習をする。
・事前に子どもの姿を写真撮影、迷子ルールの反復練習、当日の歩き方の工夫、ロールプレイによる声かけ対応など、家族で練習をする。
夏祭りや花火大会は、家族にとって楽しい思い出になる大切な時間です。しかし、 人混みでは、親のわずかな油断が子どもの誘拐や迷子につながります。犯人は子どもの「優しい大人を信じる心理」を利用します。
普段から迷子時のルールや「知らない人について行かない」を必ず守り、お出かけ当日は子どもから目を離さず、帰宅するまで気を緩めないことが大切です。
安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。