
子どものベランダ転落事故を防ぐには?5歳児の事故とデータ・研究から考える対策
2026年9月15日、東京都北区の集合住宅で、5歳の男の子が11階の自宅ベランダから転落し、亡くなる事故がありました。
報道によると、ベランダには高さ約120cmの手すりがあり、椅子などの踏み台になる物は確認されていませんでした。警視庁などは、男の子が手すりの隙間に足をかけてよじ登り、転落した可能性があるとみて、詳しい状況を調べています。
「120cmも高さがあるのに、5歳の子どもが越えられるのか」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、子どもの身体能力を調べた実験では、5歳児の90.2%が高さ120cmの柵を30秒以内に登ることができたという結果があります。
もちろん、この実験の柵と今回の事故現場の手すりは同じ形状・条件ではなく、この数字だけで今回の事故原因を説明することはできません。それでも、「この高さなら子どもには越えられないだろう」という大人の感覚と、子どもの実際の運動能力には差があることを示す重要なデータです。
子どもの窓・ベランダからの転落事故は、今回に限ったものではありません。公的な事故データと研究から、実態と対策を見ていきます。
目次
子どもの窓・ベランダからの転落事故は、どれくらい起きている?
消費者安全調査委員会が2025年6月に公表した「住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故」の調査報告書では、複数の公的データを用いて事故の実態が整理されています。
全国:6歳未満の窓・ベランダからの転落死亡事故は32年間で134件
同報告書では、国土交通省、警察庁、新聞報道などのデータを用い、1993年から2024年までの32年間に発生した6歳未満の子どもの住宅の窓・ベランダからの転落死亡事故134件を分析しています。
転落場所の内訳は、窓からが42件、ベランダからが92件。ベランダからの転落死亡事故では3歳が41件と最も多く、次いで4歳が21件でした。
また、事故発生時に保護者が在宅していたケースは134件中65件、不在は55件、14件は不明でした。つまり、「保護者が家にいれば事故は起きない」とは言えません。
さらに人口動態調査では、2014年から2023年までの10年間に、9歳以下の「建物又は建造物からの転落」による死亡事故が58件確認されています。この数字には窓・ベランダ以外からの転落も含まれます。
東京都:5年間で5歳以下51人が窓・ベランダからの墜落で救急搬送
東京消防庁によると、東京消防庁管内では2021年から2025年までの5年間に、5歳以下の子ども51人が住宅等の窓やベランダからの墜落によって救急搬送されています。1階からの墜落は含まれていません。
初診時程度では、約8割が入院を必要とする「中等症以上」、2割以上が生命の危険が強い「重症以上」でした。2階からの墜落でも25人が中等症以上と診断されています。
高層階だけの問題ではないことが分かります。
事故は5月と10月に多い
東京消防庁の最新データでは、月別の救急搬送人員は5月が最も多く、次いで10月に多く発生しています。
政府広報オンラインも、気候が良くなって窓を開けたり、ベランダに出たりする機会が増える時期には注意が必要だと呼びかけています。
9月から10月にかけては、家庭の窓やベランダの安全対策を改めて確認したい時期です。
5歳児の90.2%が「高さ120cmの柵」を30秒以内に登れた

消費者安全調査委員会の報告書には、子どもの「よじ登る能力」に関する実験結果も掲載されています。
3歳、4歳、5歳の子どもが、高さ120cm・130cm・140cmの柵を30秒間で登ることができるかを計測した結果は次のとおりです。
| 年齢 | 120cm | 130cm | 140cm |
|---|---|---|---|
| 3歳 | 65.7% | 20.0% | 0.0% |
| 4歳 | 72.5% | 50.0% | 27.5% |
| 5歳 | 90.2% | 82.9% | 73.2% |
5歳児では、120cmだけでなく、140cmの柵でも7割以上が30秒以内に登ることができました。
別の実験では、足掛かりがない条件でも、高さ110cmのベランダ手すりを登ることができた割合は4歳児で71.4%、6歳児で85.7%でした。
大切なのは、「手すりの高さがあるから安全」「踏み台を置いていないから安全」とは限らないということです。
横桟、格子、通気孔、隙間など、ベランダそのものの形状が子どもにとって足掛かり・手掛かりになることがあります。
子どもの転倒は約0.5秒。「見てから助ける」には物理的な限界がある

東京科学大学(旧・東京工業大学)工学院の西田佳史教授は、子どもの事故予防や安全工学を研究しています。
西田教授らによる2013年の査読論文では、11〜50か月の子ども19人の日常行動をセンサーホームで計測し、105件の実際の転倒を収集したデータベースが構築されました。
また、消費者安全調査委員会の2025年報告書では、西田教授らの知見を引用し、子どもが平地で転倒する場合、倒れ始めてから身体の一部が接地するまでの時間は「0.5秒程度」が最も多いと整理しています。
人が目で見て反応するまでに約0.2秒かかるとすると、0.5秒のうち大人が行動に使える時間は計算上約0.3秒です。
ここでいう0.5秒は「ベランダから0.5秒で転落する」という意味ではありません。平地での転倒に関するデータです。
ただし、この研究が示しているのは、事故が始まってから大人が気づき、反応し、身体を動かして止める方法には限界があるということです。
だからこそ、事故予防では「ちゃんと見ておく」だけでなく、事故につながる環境そのものを事前に変えておくことが重要になります。
「目を離さないで」だけでは、転落事故を防ぎきれない
子どもの事故が起きると、「なぜ目を離したのか」「見ていれば防げたのではないか」という声が出ることがあります。
もちろん、子どもを見守ることは大切です。
一方、政府広報オンラインは、「こどもから一瞬たりとも目を離さないというのは限界があります」とし、見守りと合わせて、事故が起きない環境を作ることが重要だとしています。
家事をする。トイレへ行く。荷物を運ぶ。きょうだいの世話をする。

子育ての生活の中から、こうした瞬間を完全になくすことは現実的ではありません。
事故予防を保護者の注意力だけに依存させるのではなく、目が離れた短い時間にも重大事故につながりにくい環境をつくるという考え方が必要です。
今日確認したい、窓・ベランダの転落防止チェックリスト
東京消防庁、政府広報、消費者安全調査委員会の情報をもとに、家庭で確認したいポイントを整理しました。

- 窓やベランダの出入口に補助錠を付ける
子どもの手が届かない位置に設置し、子どもだけでベランダへ出られない環境をつくります。 - ベランダに足場になる物を置かない
椅子、テーブル、プランター、おもちゃ、段ボールなど、子どもが登れる物を手すり付近に置かないようにします。 - 室外機の位置を確認する
政府広報は、可能な場合は室外機を手すりから60cm以上離して設置するよう呼びかけています。 - 室内の窓の近くも確認する
ソファ、ベッド、棚などが窓へ登る足場になっていないか、レイアウトを見直します。 - 網戸を「柵」と考えない
網戸に寄りかかって外れ、転落した事故も報告されています。 - 手すりそのものの形状を見る
横桟、格子、隙間、装飾、通気孔などが足掛かりや手掛かりになっていないか、子どもの目線で確認します。 - 窓・網戸・手すりの劣化を確認する
網戸が外れやすくなっていないか、手すりに不具合がないかを定期的に点検します。 - 窓を開けた部屋やベランダで子どもだけにしない
環境対策と見守りを組み合わせることが重要です。
子どもは、大人が思っている以上に「できる」

昨日まで届かなかった場所に手が届く。登れなかった場所に登れるようになる。
子どもの成長は喜ばしい一方で、安全という視点では、それまで安全だった環境が、成長によって突然危険な環境に変わることがあります。
「まだ開けられないだろう」
「ここまでは登れないだろう」
「この高さなら大丈夫だろう」
その「だろう」を、ときどき子どもの目線で見直すこと。
そして事故が起きた後に誰かを責めるのではなく、事故が起きる前に、起きにくい環境をつくること。
窓を開ける機会が増える季節だからこそ、ぜひ今日一度、自宅の窓とベランダを確認してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 5歳の子どもは高さ120cmの手すりを越えられますか?
実験条件によりますが、消費者安全調査委員会が引用する実験では、5歳児の90.2%が高さ120cmの柵を30秒以内に登ることができました。実際のベランダは形状が異なるため数字をそのまま当てはめることはできませんが、120cmという高さだけで安全とは判断できません。
Q. 子どもの窓・ベランダからの転落事故は何歳に多いですか?
消費者安全調査委員会が分析した6歳未満の死亡事故では、ベランダからの転落は3歳が最も多く、次いで4歳でした。東京消防庁の2021〜2025年の救急搬送データでは、1歳と4歳が多くなっています。
Q. ベランダに物を置かなければ安全ですか?
物を置かないことは重要な対策ですが、それだけで十分とは限りません。手すりの横桟や格子、隙間など、ベランダ自体の構造が足掛かりになる場合があります。出入口の補助錠など、子どもが単独でベランダへ出られない対策も組み合わせましょう。
Q. 子どもの転落事故が多い時期はありますか?
東京消防庁管内の2021〜2025年の救急搬送データでは、5月が最も多く、次いで10月に多く発生しています。窓を開けたりベランダに出たりする機会が増える時期は、特に注意が必要です。
参考資料・出典
- 消費者安全調査委員会「消費者事故等調査報告書(住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故)」2025年6月24日
- 東京消防庁「こどもが住宅等の窓・ベランダから墜落する事故に注意!」
- 政府広報オンライン「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」
- Kakara H, Nishida Y, et al. Development of childhood fall motion database and browser based on behavior measurements. Accident Analysis & Prevention. 2013;59:432-442.
- 東京科学大学 研究情報データベース「西田佳史」
- FNNプライムオンライン「柵の隙間に足をかけてよじ登り転落か マンション11階から5歳男児が転落死 東京・北区」2026年9月15日