
子育て中のイライラと上手に付き合う方法~アンガーマネジメントで怒りを上手にコントロールする方法~
子育てをしていると、つい子どもの行動に強く怒ってしまうことってありませんか?
やってはいけないことを繰り返す、反抗して親の言うことを聞かないなど、様々な場面で子どもに対してイライラする親御さんは多いのではないでしょうか。さらに、疲れやストレスで、いつもより怒りっぽくなってしまうことも。
ただ、必要以上に怒りすぎてしまうと「怒りに振り回されている状態」といえます。怒りが暴走すれば、心身ともに大きな負担となってしまうでしょう。
だからこそ、怒りに振り回されず、適切に表現する方法を身につけることが大切です。その助けになるのが【アンガーマネジメント】といわれる心理トレーニングです。
今回は、このアンガーマネジメントについてご紹介します。
目次
子育て中にイライラしやすくなる背景と「怒り」の正体

アンガーマネジメントの解説に入る前に、まずは怒りそのものについて考えてみたいと思います。(参考:アンガーマネジメント協会「怒りって何? 私たちを怒らせるものの正体」)。
怒りは自然な感情。怒らない人はいない。
怒りは誰にでもある自然な感情で、完全になくすことはできません。怒るということは笑うことと同じように、生きていたら自然にわいてくる感情なのです。
怒りが生まれるメカニズム
そもそも、怒りはどのようにして発生するのでしょうか。アンガーマネジメント協会によると、自分のもっている「理想」と「現実」の間にギャップが起きると怒りが生じると言われています。そして、この「理想」は「~べき」という表現で私たちの中に存在しています。この「理想」には願望や希望、要求などが含まれています。
例えば、「子どもは親にいつでも従うべき」という理想には、子どもへの要求が含まれていますよね。
この「~べき」という理想が強ければ強いほど、現実で実現されないときに強い憤りを感じることになります。「子どもは親にいつでも従うべき」という理想が強いと、少しでも親の意に反することを子どもがするだけで、怒りが爆発しやすくなります。
怒りと上手に向き合うためのトレーニングがアンガーマネジメント

理想をまったく持たなければ怒ることも減りますが、子育てに理想を持たない親はいませんよね。日々の生活で理想と現実のギャップに直面するたび、怒りを感じ続けると心身ともに疲れてしまいます。
そこで役立つのが、怒りと上手に付き合うための心理的トレーニング「アンガーマネジメント」です。
アンガーマネジメント協会では「必要なときは上手に怒り、必要のないときは怒らずに済むこと」を目標としています。つまり、怒りを抑え込むのではなく、適切に表現するための方法です。
ここからは、篠真希先生の著書「お母さんのためのアンガーマネジメント入門 子育てのイライラ・怒りにもう振り回されない本」(すばる舎、2017年4月)を参考に、家庭で実践しやすいアンガーマネジメント法を3つご紹介します。
アンガーマネジメント①理想をゆるめる:まずは自分の理想を知る
怒りの原因となる理想を見直すことで、いま感じている怒りを和らげられます。
まずは冷静なときに、自分の心の中をのぞいてみましょう。自分がどんなときによく怒りを感じるのか、振り返ってみてください。怒りをよく感じるシチュエーションこそ、あなたの「~べき」という理想が叶えられていない場面であるといえます。
例えば、「子どもは親の言うことをすぐ聞くべき」「いつもきれいに片付けるべき」など、自分の中の「べきルール」が厳しすぎると、現実とのギャップで怒りやすくなります。
夫婦間で子どもを怒るポイントが違う場合も、理想の差に気づくヒントになります。。例えば、三回注意しても子どもが間違った行動を直さないとき、あなたは強く怒るのに対し、パートナーは特に気にする様子はなく注意するだけにとどまっているかもしれません。この違いは、あなたの理想が「3回注意したら直すべき」、パートナーは「子どもは繰り返すもの」という考えだからです。
まずはこうした理想を書き出し、自分がどんな「べき」にとらわれているのかを知ること。これが怒りと上手に付き合うための第一歩となります。
アンガーマネジメント①理想をゆるめる:許容ゾーンをつくろう
自分の理想がわかったら、次は「まあ許せるゾーン」を作ってみましょう。これは、理想から多少外れても受け入れられる範囲を設定することです。下の図のように、理想通りの行動=「許せるゾーン」、多少外れても許せる範囲=「まぁ許せるゾーン」、そして絶対に受け入れられない「許せないゾーン」に分けて考えます。

「まぁ許せるゾーン」がひろくなれば、カチンとくることがあっても、激しい怒りにはつながりにくくなります。逆に、このゾーンが狭いと、理想から少し外れただけで「許せない!」となり、怒りやすくなるのです。
例えば、食事中に子どもに要求したい理想の行動を「スプーンとフォークを使って綺麗に食べる」とします。まぁ許せるゾーンを「スプーンとフォークを使って食べる」、許せないゾーンを「遊びながら食べる」とします。子どもが食べ物をこぼしてしまったとき、スプーンとフォークを使って食べているならば、「まぁ許せるゾーン」の範疇に入る行動なので「仕方ないな」と怒りを感じにくくなります。
こうした基準を持つことで、怒りのコントロールがしやすくなります。
大切なのは、子どもの成長ペースを尊重すること。私の長女は入園ギリギリまでおむつがとれず、入園直前はかなり怒ってしまった経験があります。今振り返ると、怒る必要はなかったと実感しています。理想を少しゆるめることで、親も子も心に余裕を持って過ごせます。
アンガーマネジメント①理想をゆるめる

理想を持つことは悪いことではありません。理想があることで頑張れることだってありますよね。ただ、その理想と現実のギャップに強くこだわりすぎると、怒りに振り回されやすくなります。そんなときは、意識的に理想をゆるめて「まぁ許せるゾーン」を作ってみましょう。
私自身も長女の時は、食事に関して「子どもの口に入れるものは全て手作りであるべき」という完璧主義な理想をもっていて、「まぁ許せるゾーン」が全くありませんでした。初めての子育てで気合十分だったのですが、どんなに手をかけた離乳食を作ってもほとんど食べてくれない子でした。「こんなに一生懸命作ったのに、なんで食べてくれないの!」と毎回イライラ。怒りたくなる気持ちを抑え込むのに必死でした。ある日、とうとう怒りを抑えられなくなり、「どうして食べてくれないの!」と怒鳴ってしまいました。今でも当時を思い出すと、長女に申し訳ないことをしたと胸が痛みます。振り返れば、元気に育っていたのだからそれだけでいいはずなのに、食べてくれないからといって怒る必要はなかったんですよね。長女にイライラしたのは私の理想を子ども押し付けてしまっていたから。「今日は疲れているから、レトルトの離乳食でもいっか」と理想をゆるめることができていれば、長女にきつく怒ることもなかったと思います。
子どもの成長や健康へ理想を描くことは決して間違っていません。しかし、その理想をいつでも貫きとおすのではなく、理想をゆるめることも意識してみましょう。案外、理想通りでなくても、子どもも自分も笑顔で過ごせて楽しい気持ちになれるかもしれませんよ。
アンガーマネジメント②コーピングマントラ

衝動的な怒りは6秒でおさまるといわれています。この6秒間をうまくやりすごすための方法のひとつが 【コーピングマントラ】です。
コーピングマントラとは、自分を落ち着かせる言葉を心の中で繰り返す方法です。例えば、好きな楽曲のフレーズや「大丈夫、落ち着こう」など、自分にとって安心できる言葉を6秒間唱えてみましょう。自分に合った「お守りの言葉」を見つけておくと、イライラを感じたときすぐに実践でき、怒りが爆発する前に気持ちを切り替えることができます。
アンガーマネジメント③タイムアウト

怒りが大爆発して、「6秒待つなんて無理!」というときは、タイムアウトを取り入れてみましょう。一旦その場を離れて距離を置くことで、気持ちをリセットする方法です。
ただし、子どもが目の前にいるときは、親が自分を置き去りにしてしまうのではと子どもが不安に思わないように、離れる前に「5分だけ休憩させて」と声をかけるなどして、必ず戻ってくることを伝えましょう。
私自身も、怒りが暴発しそうなとき、タイムアウトとして昼寝をすることがあります。「疲れていて怒りやすくなっているから、昼寝するね。」と正直に伝えると、子どもたちはホッとした表情になります。親がイライラしているのは、意外と子どもには伝わっているため、我が家の場合「寝る=タイムアウト」のおかげで、母親のイライラがなくなることを子どもも理解しており、タイムアウトは子どもたちにとっても気持ちが楽になるようです。
タイムアウト後は、親も子どもも気持ちが落ち着き、改めて冷静に向き合えるはずです。親子そろってホッと一息つけるようなタイムアウトがとれるといいですね。
怒るのは子育てを一生懸命頑張っている証
アンガーマネジメントについて紹介していきましたが、親が子どもをよく怒ってしまうのは、子どものことを真剣に育てようとしているからです。
たとえば、スーパーでよそのお子さんが「おやつを買ってよ!」と大声で騒いでいてもそこまで気にならないのに、自分の子どもが同じことをすると、周りに迷惑をかけてしまうのではないかと「ダメ!」「静かに!」と、つい強く叱ってしまったご経験がある方もいらっしゃると思います。それは「ちゃんとした大人に育ってほしい」という責任感や愛情があるからこそ出てくる気持ちです。
後になって、怒りすぎてしまったのではと反省したり悔やむこともあるでしょうが、あまりご自分を責めすぎないでください。怒りを感じるのは、あなたが子育てに真剣に向き合っている証です。。
怒るという感情自体は誰しも生まれ持っているものなので、うまくコントロールができれば、子どもとの関係を良くすることにもつながります。まずは、どんな時にイライラしてしまうかな?どうしたら気持ちが抑えられるかな?とご自身の気持ちと向き合って、ご自身の気持ち・感情を大切にしてくださいね。
一人で抱え込まないで!サポートを頼る勇気を

うまくご自身の気持ちをコントロールできない環境や、自分一人では解決が難しいと感じる方は、身近な人や地域の子育て支援機関等に相談してみましょう。自治体の子育て支援センターや小児科など、あなたの子育てをサポートしてくれる場所はたくさんあります。
一人で抱え込まずに、周りを頼ってみましょう。
まとめ
・アンガーマネジメントは、自分の気持ちをコントロールするための心理トレーニング
・怒りは自然な感情。向き合って上手く使うことで子育て上手に
・理想を高く持ちすぎずゆる~く見守るくらいでやり過ごす。時には自分だけの時間(タイムアウト)も大切
・イライラ・ムカムカが出てきたら、魔法の言葉(コーピングマントラ)を思い出してみる
怒りすぎているなと感じたときは、まず深呼吸をして力を抜き、「まぁ許せるゾーン」を意識してみましょう。どうしても怒りが収まらないときは、タイムアウトをとって一旦その場を離れるのも有効です。
怒ってしまう自分を責める必要はありません。それは、子育てに一生懸命向き合っている証拠だからです。
もし子育てでつらさを感じたら、子育て支援機関や身近な人に相談しながら、頑張りすぎずに向き合っていきましょう。

新井知佳
臨床心理士・公認心理師
臨床心理士・公認心理師の資格を持ち、小児科やスクールカウンセラーとして、子どもや保護者の心に寄り添う支援に従事。現在は、小学生の長女と、自閉スペクトラム症・知的発達症をもつ年長の長男の子育てを中心とした生活を送りながら、専門家としては主に認知症の心理評価などを行っている。子育ての実体験と心理の専門知識を生かし、発達や子育てに悩む家族への情報発信や支援活動にも取り組んでいる。