
子どもの留守番、アリ?ナシ?安心できる留守番をするために
突然の用事で子どもに留守番を頼まなければならない…そんな経験はありませんか?共働き家庭や急な用事でやむを得ない場合に留守番が必要になる一方、そこには見えない危険が潜んでいます。
今回は、留守番のリスクや具体的な防犯対策、安心して留守番をさせるためのポイントをご紹介します。みなさんのご家庭に合った安全な留守番を考えてみてください。
執筆 元警察官 安井かなえ
目次
小学生の留守番、何歳から安全?現実を直視しよう

「子どもに留守番をさせるのは何歳からが適切?」という疑問を持つ方も多いでしょう。
2023年10月、埼玉県の自民党県議団が小学3年生以下の子どもだけで公園で遊ぶこと、登下校すること、留守番などが全て“虐待”にあたるとする「虐待禁止条例」の改正案を提出し、猛反発を受けて取り下げたことが話題になりました。
小学校3年生といえば、まだまだ好奇心旺盛で、少しずつ自立心が育ち始めていますが、まだ判断力や危機管理能力が十分ではありません。
実際、留守番中の子どもが被害に遭ったケースも報告されています。例えば、不審者が「宅配便です」と偽ってドアを開けさせ、家に侵入するケース。低学年の子は「知らない人にはついていかない」というルールを教わっていても、目の前の状況でどう対応すべきか迷ってしまうことが多いのです。
私の娘が小学1年生のとき、たった5分間留守番をさせていたときにインターホンが鳴り、女性の声で「ママいますか?」との呼びかけに「ママはいません」と返事をし、一瞬ドアを開けようとしたことがありました。
幸い私が日頃から「絶対開けないで!」と伝えていたので事なきを得ましたが、子どもの無垢な判断が危険を招く瞬間を目の当たりにしました。実際は保険の勧誘だったらしく、郵便受けに名刺などが入っており、事なきを得ました。
また、留守番は外部からの危険だけでなく、家の中での事故リスクも伴います。火を使った調理で火傷を負ったり、誤って薬品を飲んでしまったりする事例も。
私が子育てをする中で感じるのは、「子どもは予想外の行動を取る」ということです。
例えば、次男がある日留守番中に、お菓子を温めようと電子レンジにプラスチックのお皿ごと入れてしまい、お皿が溶けたことがありました。慌てて帰宅した私に「面白かったよ」と笑顔で言う姿に呆れつつも、親がそばにいない状況での小さな好奇心が大きな危険につながる可能性を実感しました。留守番は「アリ」かもしれないけれど、リスクを考えると「ナシ」にしたい気持ちも湧いてきますよね。
ニュースで見た現実。留守番中の悲劇が教えてくれること

留守番中の子どもが被害に遭った事件は、残念ながら過去に何度も報道されています。その中でも特に衝撃的だったのが、2025年2月に読売新聞で報じられた大阪の事件です。
この事件では、元病院職員の男(当時28歳)が2016年から2022年にかけて、大阪府内で留守番中の小学生女児10人に性的暴行を加えたとして裁判にかけられました。検察側は「被害者の人格を無視した卑劣な犯行」として無期懲役を求刑。男は女児が帰宅したタイミングを見計らい、カッターナイフで脅して家に侵入し、「泣いたら殺す」「言ったら家族も殺される」と恐ろしい言葉で恐怖を与えていたとされています。被害に遭った女児の中には、小学校低学年の子も含まれていました。
この事件の恐ろしい点は、犯人が留守番中の子どもを明確に狙っていたことです。保護者が不在であることを見抜き、計画的に犯行に及んでいたのです。低学年の子どもは、インターホンが鳴っても「親が留守だ」と正直に答えてしまうことがあり、それが犯人に「今がチャンス」と判断させるきっかけになります。
私が刑事として学んだのは、犯罪者は「隙」を探しているということ。留守番中の子どもがいる家は、まさにその「隙」になり得るのです。この事件を知った時、母親として胸が締め付けられる思いでした。留守番を「アリ」にすることの重さを改めて感じさせられる出来事です。
犯罪者が狙うポイントを押さえる

犯罪者がどのようなポイントでターゲットを選ぶのか、ある程度のパターンが見えてきます。留守番中の子どもがいる家が狙われやすい理由を具体的に挙げてみます。
1. 不在が分かりやすい家
郵便受けに新聞やチラシが溜まっていたり、家の明かりが消えたままだったりすると、「誰もいない」と判断されやすいです。低学年の子は、そうしたサインに気づかず放置してしまうことが多いです。
2. 子どもの存在がバレる状況
例えば、子どもが窓を開けて外に向かって話しかけたり、インターホンで「ママはいないよ」と答えたりすると、留守番中であることが一瞬で伝わります。犯人はこうした情報を聞き逃しません。
私の娘は、ある日近所の友達と窓越しに話していて、「今からママが出かけるの」と無邪気に言ってしまいました。それを聞いたときゾッとしたのを鮮明に覚えています。
3. 戸締まりの甘さ
低学年の子は鍵のかけ忘れが多く、玄関や窓が無施錠のままになることがあります。令和2年の警察庁の調査では、空き巣の約42%が無施錠の家であったというデータもあります。鍵をこじ開ける手間もなく、簡単に侵入できてしまうのです。
4. 母親としての視点:子どもの不安に寄り添う
刑事としての知識も大切ですが、母親として子どもと接する中で気づいたこともあります。それは、「留守番は子どもにとっても不安な時間」ということです。私の娘を初めて数分間留守番をさせた時、私が帰宅すると「ママが帰ってこなくなるんじゃないかと心配だった」と涙目で言いました。
低学年の子は想像力が豊かで、親がいない間に何か悪いことが起こるのではないかと怖がることがあります。
だからこそ、留守番を「アリ」にするなら「安心感」を与える準備が欠かせません。例えば、私は子どもたちに「何かあったらすぐママに電話してね」と伝え、自宅のホームデバイスの通話機能の使い方を練習させました。
また、帰宅時間を明確に伝えることも大事です。「5時までには絶対帰るよ」と約束すると、子どもは時計を見ながら安心して待っていられます。さらに、「ママはいつも近くにいるよ」と声をかけることで、心の距離を縮めるようにしています。子どもの気持ちに寄り添うことが何より大切です。
具体的な防犯対策

では、小学校低学年の子が留守番をする際、具体的にどんな防犯対策を取ればよいのでしょうか。
1.「留守番ルール」を作る
子どもと一緒にルールを決め、紙に書いて目立つ場所に貼っておきましょう。
・インターホンが鳴っても出ない
・知らない人には絶対にドアを開けない
・電話が鳴ってもママやパパ以外には出ない
私の家では、ALSOKの「あんしん教室」で教わる「いいゆだな」(「いいえ」「いちど」「ゆうびん」「だれか」「なか」)を参考にしています。これは「ノーと言える」「一度家に入ったら出ない」「郵便受けをチェック」「誰もいないように見せる」「中に入ったらすぐ鍵をかける」という意味で、低学年の子にも覚えやすいです。
2.家の防犯環境を整える
・鍵の練習:子どもがスムーズに鍵をかけられるよう、何度も練習しましょう。私の長女は最初、鍵を逆に差し込んで焦ったことがありました。
・防犯ブザー:通学用とは別に、家に置く用のブザーを用意。緊急時にすぐ鳴らせるように。
・見守りカメラ:スマホで室内を確認できるカメラを設置すると、親も安心です。ただし、「監視されてる」と感じさせないよう、事前に子どもと話し合ってください。
3.家に人がいるように見せる工夫
留守番中でも、テレビをつけておく、照明をタイマーで点灯させるなど、「大人がいるかも」と思わせる工夫を。私の家では、子どもに「帰ったら『ただいま!』と大きな声で言うんだよ」と教えています。次男はこれをゲーム感覚で楽しんでいます。
私の刑事時代の元上司は常日頃から映画の「ホームアローン」を参考にするとよいと話しています。侵入者に対して攻める(威嚇)防犯で追っ払っている点が理想なのです。
4.緊急時の連絡手段を確保
携帯電話や固定電話に、親の番号をワンタッチでかけられる設定を。「何かあったら110番もありだよ」と教えていますが、低学年の子には使い方を具体的に練習させておくことが大事です。私は子どもたちと「電話で助けを呼ぶ練習」を何度もしました。
5.留守番後のフォローも忘れずに
留守番が終わった後も、子どもと話す時間を取ってください。「何か怖いことはなかった?」「何をして過ごしたの?」と聞くことで、子どもの気持ちや行動を確認できます。
私の長女は、ある日「インターホンが鳴って怖かった」と打ち明けてくれました。それをきっかけに、「次からはママにすぐ電話してね」と再確認できたのです。次男は「テレビを見てただけ」と笑顔で報告してくれることも。こうしたコミュニケーションが、次回の留守番をより安全に、そして「アリ」にします。
まとめ
・留守番開始の適切な時期とリスクの認識
・犯罪者が狙うポイントとその対策
・子どもの不安に寄り添う重要性
・具体的な防犯対策
子どもの安全は私たち大人の責任です。大阪の事件のような悲劇を二度と繰り返さないためにも、留守番の時間を少しでも安全で楽しいものにしてください。私の経験が、皆さんの子育ての一助になれば嬉しいです。親子で話し合いながら、留守番を「アリ」に変える第一歩を踏み出してみませんか?

安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。