
子どもとSNSの安全な付き合い方~知っておきたいリスクと対策~
スマートフォンやタブレットが身近になり、子どもたちにとってSNSは「特別なもの」ではなく、日常の一部になりました。友だちとのやりとり、動画の視聴、ゲームの延長として、自然に使い始める子も少なくありません。
一方で、大人が気づかないところで、子どもがトラブルや危険に巻き込まれるケースも増えています。
SNSは便利で楽しい反面、子どもにとっては分かりにくいリスクが多く潜んでいるのが現実です。
この記事では、子どもとSNSがどのような場面で危険につながりやすいのか、そして家庭でできる対策について、分かりやすく整理します。
監修者:元警察官 安井かなえ
目次
SNSが関係する子どものトラブルとは

SNSが関係する事件は、突然起きるものではありません。
多くの場合、ごく自然なやりとりから始まります。
たとえば、
・年齢や立場を偽って近づく
・ゲームや趣味をきっかけに仲良くなる
・写真や動画を送らせ、それを悪用する
・「相談に乗るよ」「味方だよ」と言って心の距離を縮める
こうした関わりの中で、子どもは少しずつ相手を信じていきます。そのため、自分が危険な状況に近づいていることに気づきにくくなります。
近年は、送った写真や動画がそのまま使われるだけでなく、AIによって勝手に加工され、性的な画像に作り変えられてしまう被害も問題になっています。子ども本人は何もしていないのに、「一度送った写真」が思わぬ形で悪用されてしまうケースもあります。
特に多いのが、子ども自身が「被害にあっている」という自覚を持てないケースです。 優しい言葉や気遣いの裏に、別の目的があるとは思えないからです。
犯罪は、ある日突然起きるのではありません。気づかないうちに距離が縮まり、その先で取り返しのつかない状況につながることがあります。だからこそ、早い段階での気づきと、周囲の大人の関わりが重要になります。
なぜ子どもはSNSで狙われやすいのか

子どもがSNS上でトラブルに巻き込まれやすいのには、いくつかの理由があります。
それは「気をつけていないから」ではなく、子どもならではの特性によるものです。
まず、子どもは大人に比べて、人を疑う経験が少ないという特徴があります。優しく話を聞いてくれる人や、自分を認めてくれる相手に対して、自然と安心感を持ちやすいのです。
また、
・だれかとつながっていたい
・ひとりぼっちになりたくない
・ほめられるとうれしい
といった気持ちも、成長過程ではごく自然なものです。しかし、その気持ちにつけこまれると、相手との距離が急に縮まってしまうことがあります。
さらに、SNSでは相手の顔や本当の年齢、立場が分かりません。画面の向こうの相手が、どんな人なのかを正しく判断するのは、大人でも簡単ではありません。子どもであればなおさらです。「会っていないから大丈夫」「ネットの中の話だから平気」こうした思い込みも、危険に気づくのを遅らせる原因になります。
大切なのは、子どもが弱いから狙われるのではないということです。子どもの成長段階として自然な心の動きが、結果的にリスクにつながってしまう場合がある、という点を大人が理解しておく必要があります。
知っておきたい加害者のよくある手口

SNS上で子どもに近づく人は、最初から危険な言動をすることはほとんどありません。むしろ、「普通で、優しそうな人」として近づいてくることが多いのが特徴です。
よく見られるのは、次のような流れです。
まず、年齢や立場を偽ったり、はっきりとは明かさないまま関係を始めます。同じゲームをしている、同じ趣味があるなど、子どもが親しみやすい話題を使って距離を縮めます。
次に、
「それはつらかったね」「君の気持ち、分かるよ」といった言葉で、子どもの話をよく聞く姿勢を見せます。この段階では、子どもにとって「信頼できる人」「味方のような存在」になっています。関係が深まると、「これは二人だけの話だよ」「親には言わなくていい」と、周囲から切り離そうとする言動が見られることもあります。
こうして、子どもは「この人だけは自分を分かってくれる」と思い込み、疑う気持ちを持ちにくくなります。大切なのは、危険は分かりやすい形では近づいてこないという点です。怖い言葉や乱暴な態度ではなく、やさしさや親切さの形をして近づいてくる。それが、SNSに関わるトラブルの多くに共通する特徴です。
だからこそ、「知らない人と個人的にやりとりしない」「秘密のやりとりは作らない」といった基本的な考え方を、日頃から親子で共有しておくことが重要になります。
家庭でできるSNS対策の基本

SNSのトラブルを防ぐために、特別な知識や厳しい管理が必要というわけではありません。日々の関わり方や声かけが、いちばんの対策になります。
1.「禁止」よりも「話す」ことを大切にする
いきなり「SNSは禁止」「知らない人とは絶対ダメ」と決めてしまうと、子どもは使い方を隠すようになりがちです。まずは、「最近流行ってるアプリって何?」「こんな(SNSの名前)が流行っているみたいだけど、使ってる?どんなのか教えて」と関心を表し、子どもの目線に立って子どもたちの世界を知ることから始めましょう。
2.困ったら必ず相談していいと伝える
多くの子どもが一番怖がっているのは、親に怒られることです。「何かあっても、怒らないから話してほしい」「困ったら、すぐ言っていい」この一言があるだけで、相談のハードルは大きく下がります。
3.写真や個人情報について一緒に考える
SNSでは、何気ない投稿から
・顔
・学校
・住んでいる場所
が分かってしまうことがあります。頭ごなしに「ダメ」と言っても伝わらないことがありますので、お子さんとの会話の中で「この写真、どこかわかる?」と近所や生活圏内の風景の写真を見せてクイズを出してみましょう。
もし子どもが場所を当てられたら、「写真でも場所バレちゃうんだね」「SNSで写真シェアしたら、家も分かっちゃうかも。怖いんだね。」と一緒に知る、考えるきっかけや時間を是非持ってみてください。
4.使う時間と場所を決める
夜遅くまでの利用や、親の目が届かない場所での使用は、トラブルにつながりやすくなります。使う時間帯や使う場所(リビングなど)、家庭ごとのルールを話し合って決めましょう。
5.技術の力も上手に使う
フィルタリングや見守り機能は、子どもを縛るためのものではありません。子どもを守るための補助として、利用時間の管理、不適切な接触の防止に役立てましょう。
6.SNSの年齢制限を確認する
SNSは便利なコミュニケーションツールですが、サービスごとに年齢制限や未成年向けの機能制限が設けられています。
「使っていい年齢」と「実際に使える機能」は必ずしも同じではないため、事前に確認しておくことが大切です。

これらの年齢制限は、子どもが不適切な情報やトラブルに巻き込まれるのを防ぐために設けられています。なお、年齢条件や利用ルールは今後変更される可能性もあります。利用前には、必ず最新の利用規約を確認し、親子で使い方を話し合うことを心がけましょう。
保護者が気づいてあげたいサイン

SNSのトラブルは、はっきりとした形で表に出てくるとは限りません。その前に、小さな変化としてあらわれることがあります。
たとえば、次のような様子です。
・スマホやタブレットを急に隠すようになった
・画面をのぞかれるのを極端に嫌がる
・以前より口数が減った
・夜遅くまでSNSを使っている
・親に見せたがらないやりとりが増えた
もちろん、こうした変化が必ずトラブルを意味するわけではありません。成長の過程で見られることも多くあります。大切なのは、「責める」のではなく、「気にかける」ことです。「最近どう?」「何かあったら、いつでも話してね」そんな一言が、子どもにとっては大きな安心につながります。
SNSを完全に使わせないという選択は現実的ではないからこそ、家庭での会話、大人の気づき、見守りのための技術、この三つを組み合わせることが重要です。見守りアプリやフィルタリングも、子どもを疑うためではなく、安心して使わせるための道具として、上手に取り入れていきましょう。
まとめ
・SNSのトラブルは、突然起きるのではなく、日常のやりとりの中で少しずつ進んでいく
・子どもが狙われやすいのは、未熟だからではなく、成長過程として自然な心の動きがあるから
・一番の対策は、家庭での会話と気づき、そして必要に応じた技術の力を組み合わせること
SNSは、子どもたちにとって身近で便利なツールである一方、大人が想像しにくい形でリスクが広がる場でもあります。すべてを管理することはできなくても、「知ること」「話すこと」「一緒に考えること」は、今日からでも始められます。
子どもが何かあったときに、「怒られる前に、まず話せる存在」であること。その関係こそが、トラブルを防ぐいちばんの土台になります。
日々の小さな声かけと見守りの積み重ねが、子どもとSNSが安全に付き合っていくための、大切な一歩になるのではないでしょうか。
安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。