高齢者ドライバー増加の現状と事故防止対策とは?私たちにできること

近年、高齢者ドライバーによる交通事故が社会問題として注目されています。

警察庁の統計では、75歳以上の免許保有者は24年末時点で789万7762人とされています。この増加は、単に免許保有者数の問題にとどまらず、事故リスクや防犯面でも新たな課題を生んでいます。

今回は、その背景と具体的な対策について解説します。

執筆 元警察官 安井かなえ

高齢者ドライバーの増加と課題

高齢者ドライバーの増加は、超高齢社会の日本において避けられない状況になっています。加齢に伴う身体機能の低下や認知機能の変化が、運転に影響を与えることが少なくありません。

統計データや過去の事例をもとに、現状と課題をみていきましょう。

身体機能の低下と事故リスク

「高齢者の運転」と聞くと、年齢とともに視力や聴力、反応速度が低下し、それが事故の原因となることが思い浮かびます。
警察庁の調査では、令和元年中の死亡事故で、四輪車運転者(第1当事者)の人的要因が「操作不適」であるものの割合は、75歳未満が12%であるのに対して75歳以上は30%と高くなっています。年齢による視力低下や周辺視野が狭くなることが、歩行者や自転車の見落としにつながるのです。 

過去の事例として、2019年に東京都池袋で起きた高齢者ドライバーによる暴走事故(死者2名、負傷者7名)は、アクセルとブレーキの踏み間違いが原因でした。この事件は、高齢者の運転能力評価の必要性を社会に突きつけ、免許更新時の認知機能検査の強化につながりました。

認知機能の変化とその影響

認知症や軽度認知障害(MCI)は運転に影響を与える可能性があります。
2022年の厚生労働省の推計では、65歳以上の約15%が認知症またはMCIと診断されています。認知機能の低下は、信号の見落としや道順がわからなくなるなど、日常的な判断ミスが重大な事故につながる危険があります。

しかし、認知症が原因かと思われがちな「逆走」ですが、興味深い統計がありました。
NEXCOの統計によると、2023年の逆走発生件数は224件で、うち約7割が65歳以上の高齢者でした。高齢者による逆走件数は他の年代より多いものの、このうち認知症患者は1割以下で思ったほど多くない印象なのです。しかし、「認知症じゃないから、大丈夫」という認識は危険かもしれません。

交通安全のための対策

高齢者ドライバーの交通事故を減らすためには、昔から個人、家族、行政が連携した対策が必要と言われています。運転能力の維持・評価、運転支援技術の活用、免許返納の促進について具体的にお伝えします。

1. 運転能力を定期的に把握しましょう

75歳以上のドライバーには、免許更新時に認知機能検査が義務付けられていますが、検査の頻度や内容をもっと充実させるべきという声が少なくありません。

2023年の国土交通省の報告書では、高齢化が進む中、運転者の高齢化は今後ますます進むと予想されています。このような状況を踏まえ、高齢運転者による事故を防ぐ対策として、「安全運転サポート車」の普及促進が図られたことが報告されています。

家族に高齢者がいれば、運転に同乗し、反応速度や判断力の変化を見てみましょう。高齢者とどこかへ出かけるとき、どうしても高齢者以外が運転しがちですが、定期的に高齢者に運転してもらい、運転能力を確認することも大切です。実際に同乗することで、運転能力の低下に早めに気づくことができます。
私自身、母の運転に同乗した際、信号の見落としに気づき、早めに運転頻度を減らすよう話し合いました。こうした小さな気づきが、大きな事故を防ぐ第一歩だと思います。

2. 運転支援技術の活用

最近の車両には、自動ブレーキや車線逸脱警告などの先進安全技術(ADAS)が搭載されています。国土交通省所管のASV推進検討会において解析・推定されたデータによると、自動運転車同士は89.5%削減、ADAS同士は69.6%削減することが確認されています。高齢者ドライバーには、こういった最新の技術を積極的に活用することをおすすめします。 

ただし、技術への過信は禁物です。2024年、兵庫県では自動ブレーキを試そうとして止まれず、友人をはねる事故が起きています。技術があるから大丈夫と過信せず、限界を理解し、定期的な運転の訓練と組み合わせてほしいと思います。

 3. 免許返納の促進と代替手段の確保

免許返納は事故防止の最後の選択肢ですが、移動手段が減ると生活が不便になることが課題となっています。


警察庁交通局の公表資料によると、令和元年の免許返納は60.1万件、令和2年55.2万件、3年51.7万件、4年44.8万件、そして5年は38.3万件と年々減少しています地方では公共交通の不足が返納の壁となっています。  家族も、返納後の生活設計を一緒に考えることで、スムーズな移行ができるのではと思います。

高齢者ドライバー社会で、家庭と地域ができること

「車が歩道に突っ込んで来るなんて、思いもしませんでした」事故現場で、何度もそんな声を聞いてきました。

今、高齢者ドライバーによる交通事故は高齢社会の副作用として、事故件数も増加しています。そしてその一番の被害者になりやすいのが、注意力や判断力が未発達な子どもたちです。

では、私たちはどのようにして子どもたちを守ればいいのでしょうか。

子どもに「危険察知力」を育てる

私は子どもが巻き込まれた事故や事件の現場に立ち会うたび、「あと一歩、回避する力があれば…」と思うことが何度もありました。高齢者ドライバーによる事故の多くは、予測しづらいタイミングで起きるのが特徴です。

ブレーキとアクセルの踏み間違い、信号の見落とし、逆走など、通常の動きとは異なる行動をとることが多いため、歩行者側も油断できません。そこで家庭でできるのは、「目で見て、判断して、動ける子」に育てること。

たとえば横断歩道で、「あの車はちゃんと止まりそう?」「こっちに気づいてるかな?」と親子で話し合うだけで、子どもに「危険を予測する力」が身につくと思います。これは、事件・事故の両方から身を守る「基礎的防犯力」でもあります。

地域で「危険箇所」を洗い出す力が、防ぐ力になる

私の経験上、地域住民が一番よく知っているのは日常の危険です。

たとえば、「この時間帯は高齢者の通院車が多い」「この十字路は見通しが悪くて怖い」など、住んでいる人にしか分からない情報が防犯・交通安全対策の宝になります。

世代をつなぐ防犯意識の共有

私が警察官の現役だった頃も、事件を防ぐうえで重要だったのは「顔の見える関係」でした。

高齢者と子どもが日常的に接する機会があれば、運転中でも「この道には子どもがいる」という注意意識が自然と生まれます。

たとえば、地域の交通安全教室やイベントに高齢者も積極的に参加してもらいましょう。子どもたちの声を直接聞いたり、横断歩道を一緒に渡ったりすることは、運転に対する意識が変わる効果があると、私は現場で実感してきました。

高齢者をただ「危ない存在」とするのではなく、一緒に安全を作る仲間として巻き込むことが、事故を減らすと思います。


まとめ

・高齢者ドライバーのリスクと背景

・効果的な事故防止対策

・地域と家庭での協力の重要性

高齢者ドライバーによる交通事故が増える中、地域や家庭には事故を防ぐ大切な役割があります。定期的に運転能力を確認し、車を買い換える際は運転支援技術も検討してみましょう。

また、高齢者の免許返納を促し、子どもには危険を察知する力を育てることも必要です。地域住民が協力して危険な場所を把握し、高齢者を「危ない存在」ではなく、共に安全を作る仲間として意識することが事故を減らすきっかけになると思います。

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安井かなえ

元警察官

小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。

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