
子どものSOSに気づいていますか?性被害から子どもを守る
春の訪れとともに、3月8日の国際女性デーが近づいてきましたね。国際女性デーは、女性の権利や政治・経済分野への参加を推進し、女性差別の撤廃や平等な環境の整備を呼びかける日として、1975年に国連が制定しました。
ぜひ意識してほしいことの一つが子どもたちの安全。特に「性被害からの保護」です。
私が刑事時代に見聞きした事件で少なくないのが、身近な人からの性被害でした。子どもたちは、自分の身に起きていることを言葉にできないことが多いのです。だからこそ、親や保護者たちには、子どもの小さな変化に気づく目を持っていただきたいと思います。一緒に、子どもたちを守るための方法を考えていきましょう。
執筆 元警察官 安井かなえ
目次
子どもの性被害の実態

日本では、毎年多くの子どもが性被害に遭っています。警察庁の発表では、令和5年の性犯罪検挙件数は4,418件でした。a
この数値は、あくまで検挙された件数を表しています。実際は検挙に至らなかったり、子どもが黙っていて被害申告をしなかったりと、もっとたくさんの被害児童が潜んでいるのです。
加害者は、赤の他人だけではなく、親や親族、先生、習い事の先生など、現実には身近な大人であることも多いのです。信頼している相手だからこそ、子どもは混乱し、声を上げづらくなってしまいます。
また、子どもが助けを求められない理由には、「怖い」「全部バラされてしまう」「恥ずかしい」「自分が悪いのかも」と感じてしまうことや、「話しても信じてもらえないかも」という不安があります。そうして一人で抱え込み、苦しんでしまうのです。
性被害は、子どもの心に深い傷を残します。大人になっても、不安や対人関係の悩み、生きづらさにつながることも。でも、早いうちに気づき、適切な支援があれば、少しずつ回復できるのです。だからこそ、子どもたちが安心して助けを求められる環境を、大人が一緒につくっていくよう多くの人が考えてほしいと思います。
子どもが発する5つのSOSサイン

子どもが性被害に遭ったとき、みずから申告できる子どもは少ないです。
普段から子どもとコミュニケーションをとっていれば、その苦しみが行動や態度、体調の変化として現れたとき、気づけるかもしれません。周囲の大人が小さなサインを見逃さず、寄り添ってあげてください。
1.行動の変化

明るかった子が突然元気をなくしたり、よく遊んでいたことに興味を示さなくなったりすることがあります。また、家族や友だちと距離をとるようになったり、逆に過度に甘えたりすることも。特に、特定の場所や人を極端に避けたり、突然パニックを起こす場合もあります。少しでも違和感を感じたら、子どもをよく観察してみましょう。
2.身体的症状

性被害に遭った子どもは、男女問わず原因不明の腹痛や頭痛、不眠、食欲の変化など、ストレスによる体調不良が見られることがあります。性被害に特有の症状として、排尿時の痛みや陰部の違和感を訴えることも。少しでもこのような症状が出た場合は、遠慮せず医療機関に相談してみましょう。
3.言語表現の変化

「嫌な夢を見る」「誰にも言えない秘密がある」など曖昧な言葉で「匂わせ」てくることもあります。性的な話題に不自然に詳しくなったり、年齢に合わない言葉を使ったりすることも、被害のサインかもしれません。子どもが直接的に言葉にできない問題を抱えている可能性があります。
大人が気を配って会話を進めれば、子どもは少しづつ話をしてくれるはずです。決して焦ることなく、子どもに寄り添い、安心して話せる雰囲気づくりを心がけてほしいと思います。
4.感情的反応

心が傷ついていると、些細なことで涙ぐんだり、怒りっぽくなったりするなど、感情の起伏が激しくなることがあります。その反応がただの反抗期なのか、そうでないのかを見分けるのはとても難しいかもしれません。かと思えば、突然ぼーっとして無気力になることも。何かおかしいな、と思ったら子どもの話をよく聞いてあげてくださいね。親だけで解決できない場合は医療機関などを受診しましょう。
5.日常のコミュニケーションの大切さ

子どもがSOSを発しても、大人が気づかなければ助けを求めることができません。普段から「何か困っていることはない?」などと優しく声をかけ、いつでも安心して話せる環境をつくりましょう。また、「どんなことがあっても味方だよ」と伝え続けることで、子どもは勇気を出して打ち明けてくれるでしょう。
子どもの小さな変化に気づき、心を寄せること。それが、早期発見と支援につながる第一歩になります。普段から親子でコミュニケーションを取り、子どもの話に耳を傾け、少しの変化にも気がついてあげられる関係が理想です。
子どもが性被害に遭ったら?

実際に子どもが被害に遭ったとき、私たち親はどのような対応をするべきでしょうか。いざとなったときのために、頭の片隅に入れておいて欲しいことをお伝えします。
1.心のケアが最優先

子どもが性被害に遭った場合、まず子どもを責めたり決して非難したりせず、安心できる環境を作りましょう。何が起きたのか知りたい気持ちはわかりますが、まずは子どもが話してくれる内容に耳を傾け、「あなたは悪くない」と伝え続け、心のケアを最優先にします。
心理トラウマに対するケアもとても大切で、専門のカウンセラーや児童相談所と連携し、子どもの心のケアを根気強く長期的に支援しましょう。
子どもの気持ちを尊重し、信頼できる大人がしっかりとサポートすることが回復への第一歩となります。
プライバシーを守りながら、子どもの心身の回復を最優先に考えましょう。
2.シャワーは少し我慢

少し心苦しいのですが、ここでお願いしたいのが、証拠保全のため、医療機関や警察に行く前にシャワーを浴びないこと。
一刻も早く体や性器を洗い流したい気持ちはとてもよくわかるのですが、相手の微物(体液など)が体に付着していることが多く、この微物を採取するために洗い流さないで欲しいと思います。
採取の方法はさまざまで、医療機関で綿棒を使って膣などの内容物を採取したり、相手の唾液が付着しているであろう部分をガーゼで拭き取るなどを行います。採取後の鑑定は警察でおこないます。
3.医療機関に行く

子どもが体を痛がっている場合は、性被害に遭って間もない場合や、どこか怪我をしている可能性があります。被害に遭っている場合は、すぐに警察に通報し、医療機関を受診することを強くおすすめします。このとき、子どもには「大丈夫だよ」と絶対に責めることなく、優しく前向きな言葉をかけてあげましょう。そして、親自身が子どもに対して被害のことを根掘り葉掘り聞きすぎないでください。親には話せなくても、警察なら話せるという場合もあります。
病院では、性器だけでなく、体全体の裂傷やあざなどを医師に診てもらってください。また、女子の場合、膣内に残された相手の精液を採取できれば、犯人特定につながる可能性もあります。緊急避妊薬は、医師と相談の上服用をするかどうか判断をしましょう。
初診料、検査費用、緊急避妊薬、診断書料などは、事件内容によっては警察側から支払われる場合もあります。人工妊娠中絶費用を含めて、都道府県によって公費費用の範囲や手続きが異なりますので、会計前に事前に確認をしましょう。
まとめ

子どもの性被害は現代においても深刻な社会問題で、身体だけではなく心にも大きな傷を負ってしまうことから申告がされづらく、その実態は警察の検挙件数をはるかに超えています。
実は加害者は親族や、親と面識があるような身近な大人であることが多く、子どもは恥ずかしさや恐怖から被害を隠す傾向があります。性被害は子どもの心に深い傷を残し、大人になっても影響が続くことがあります。
子どもが発するSOSのサインは、行動、身体、言語、感情の変化として現れます。突然元気がなくなる、原因不明の体調不良、「嫌な夢を見る」といった曖昧な表現、感情の激しい起伏などが特徴的です。重要なのは、わたしたち大人が、子どもの小さな変化に気づき、安心して話せる環境を作ることです。
早期発見とそれぞれの子どもに合う適切な支援が、子どもの心の回復につながります。普段からコミュニケーションを大切にし、「どんなことがあっても味方だよ」と安心感を与え、伝え続けることが、子どもを守る最も重要な方法だと思います。

安井かなえ
元警察官
小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。