子どもたちを守るために:性被害防止のための大切な取り組み
昨年7月に「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」が策定され、8月から9月にかけては緊急啓発期間が行われて1年が経ちました。そして今年の6月には、この対策をさらに強化するための日本版DBS「こども性暴力防止法」(以下、日本版DBS法)が成立しました。子どもを持つ保護者だけでなく、地域や社会全体にとっても、子どもたちを守ることは最も大切なことですよね。
この記事では、子どもたちを守るために性被害防止に向けた政府の取り組みや、私たち親ができることについて紹介していきます。
目次
性被害防止のための政府の取り組み
日本では、教育や保育の現場での教育者、保育者による子どもへの性加害が問題になっています。
近年では、ベビーシッターが派遣先の子どもに性加害をしたことや、大手学習塾で塾講師が生徒を盗撮していた、という事件は記憶に新しい方もいると思います。また信頼して子どもを預けている学校で児童が教師から性加害に遭う事件も後を絶ちません。
その原因の1つに、子どもと接する職業に就く人が過去子どもへの性加害をした前科があっても雇用主側は過去の犯罪履歴を調べることは難しく、本人の自己申告がない限り就職できてしまうことが以前より問題視されていました。
これでは、本来安心して子どもを預けられる場所が、子どもや保護者にとって、とても不安視される場所になってしまうことも。
そこで政府は、子どもの健全な育成をめざし、安心して教育・保育を受けられるように対策「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」を打ちました。
「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」は、次の2点に重点をおいて取り組んでいます。
1.加害の防止
2.相談・支援体制の強化
これらの対策を進めるため、学校、地域社会、家庭が協力し、こどもたちが安全に過ごせる環境を整えています。それではそれぞれの内容をご紹介します。
加害の防止
2023年7月に施行された改正刑法では、性犯罪に対する厳罰化が進められました。
例えば、改正された法律では、同意のない性的行為(不同意性交等罪)や、子どもを巧みに操るような行為(グルーミング行為)が厳しく処罰されるようになりました。特に、16歳未満の子どもを守るための取り締まりが強化されています。
ちなみに話題となった日本版DBS法は、まさに「加害の防止」を象徴した法律です。
さらに、学校でも、子どもたちが性被害に遭わないための「生命(いのち)の安全教育」が行われ、特に小学生や幼児を対象として「プライベートゾーン」の啓発活動が進められ、どんなことが「被害」なのかを教えられています。ご家庭でも、これを参考にしてお子さんに教えることができます。
相談・支援体制の強化
性被害に遭った子どもや親が安心して相談できる窓口が整備されています。特に、SNSを通じて気軽に相談できる取り組みが進められ、男性や男児の被害者に対する支援も充実しています。被害を受けた子どもだけでなく、保護者や身近な大人も気軽に相談できる体制が整備されており、匿名での相談が可能なサービスも利用できます。
性犯罪や性暴力は、こどもや若者の心身に深い傷を残しますが、彼らがそれを性被害だと認識できないことや、加害者との関係から誰にも相談できない場合もあります。こうした問題に対応するため、政府は相談窓口の周知を強化し、SNSを通じた支援を推進しています。相談員は被害者に寄り添い、安心して相談できる体制を整えています。
具体的には、全国共通の相談番号「#8103(ハートさん)」や「#8891(はやくワンストップ)」があり、こどもや若者が気軽に相談できる仕組みが導入されています。また、SNSを使った「Cure time(キュアタイム)」や「親子のための相談LINE」など、相談しやすい方法も増え、保護者向けの啓発活動を通じて、こどもの被害に気づきやすくする体制づくりも進められています。スポーツ分野でも、ジュニアアスリートへのハラスメント防止の取り組みが進展しています。
また全国には、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが設置されており、被害に遭った子どもや若者が必要な支援を受けることができます。
日本版DBS法について
日本版DBS法が2026年6月に可決・成立しました。正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」といいます。
これにより、学校や認可保育所などの、国の認可をとっている施設は、保育士や教師などの性犯罪歴を確認することが義務付けられました。これにより、性犯罪歴がある人が子どもたちと直接関わることができない仕組みが導入され、保護者がさらに安心して子どもを預けられる社会が整備されています。ただし、個人経営のベビーシッターなどが対象外であるため、日本版DBS法が実際にスタートされるまでは公布から2年6ヶ月となりますので、この期間に残された課題の対策が求められています。
ちなみに日本版DBS法は、イギリスのDBS(Disclosure and Barring Service=前歴開示・前歴者就業制限機構)を参考に作られた法律です。
イギリスのDBSは、2012年からスタートしています。大きな違いの一つは、日本は子どもに携わる就職が制限されるのに対して、イギリスは子どもだけでなく、高齢者や障害を抱えた成人に携わる就職も制限の対象になります。
さらに、データベースに記録される事項の範囲が違います。
日本版DBS法では、性犯罪に関する前科(有罪判決)や条例違反の有無の記録がデータベースに記録されます。
それに対し、イギリスでは、日本のような性犯罪に関する前科や条例違反はもちろん、繰り返し警察から事情聴取を受けるなどして、性犯罪のリスクが高いと判断された人もデータベースに記録されることがあります。
この2つの違いからも分かる通り、日本版DBS法は、本場イギリスのDBSと比べると極めて限定的な制度になっています。
ご家庭でできること
こどもを性暴力から守るために、私たち大人ができることはたくさんあります。例えば、普段の生活の中で、自然なタイミングで次のことを教えてあげてください。
●水着で隠れる部分(プライベートゾーン)は見せない・触らせないこと。
●相手のプライベートゾーンを見ない、触らないこと。
●イヤな触られかたをされそうなときは、「イヤだ」、「やめて」と言ってもいいこと。
●イヤなことをされたら、すぐに大人に相談すること。
●自分は大切に扱われる存在で、相手も自分のように大切に扱われるべき存在であること。
性暴力の被害に遭ったこどもは、そのことを親や家族、身近な大人に知られることを恐れ、誰にも相談できずに、被害に遭い続けてしまう場合もあります。身近な人に知られることなく、専門家に相談できる窓口があることを、日頃から伝えておくことも大切です。
子どもが被害に遭った場合の対応について
ここでは「こどもを性被害から守るために周囲の大人ができること」(政府広報オンライン)からの情報をもとに紹介していきたいと思います。
なかなかすぐに打ち明けられる子どもは少ないことが考えられます。そんな中で、子どもが普段と違うサインを見せたら、それを注意深く見守ることが大切です。子どもが普段と違うサインの例は以下の通りです。
性暴力被害に遭ったこどもが見せるサイン(一例)
●体調の変化:おねしょ、頻尿、食欲不振、頭痛や吐き気
●行動の変化:無気力、過剰な甘え、集中力の低下
こどもの性被害のサインを見逃さないで(動画解説:「政府広報オンライン」より)
実際に、身近なこどもが性暴力の被害に遭っていることに気付いた場合は、どのように対応するのが適切なのでしょうか。被害に遭ったこどもの心の回復には、周囲の大人の適切なサポートが不可欠です。以下の点に留意して、こどもの気持ちにしっかりと寄り添ってあげてください。
子どもとの間で気を付けたいこと
絶対にこどもを責めないでください
性暴力の被害に遭ったこどもは、自分が悪いと感じたり、恥ずかしくて話せなかったりします。もし打ち明けてくれたら、「話してくれてありがとう」「あなたは全く悪くないよ」と伝えましょう。こどもの話を疑わず、責めないように寄り添って聴くことが大切です。
根ほり葉ほり聞き過ぎないでください
被害者が受けた経験を詳しく聞き出そうとすると、無意識にその記憶に他人の意見や質問が混じってしまい、事実があいまいになるおそれがあります。そのため、こどもが話してくれた内容に対して、できるだけ具体的な質問を避け、事実の確認は専門家に任せることが大切です。
被害直後:医療機関での受診について
直前に被害があった可能性がある場合は、早めに医療機関を受診し、必要な検査や治療を受けることが大切です。また全ての医療機関で証拠を採取する必要な体制、キットが用意されていないことがあります。1秒でも早く、被害に遭った状態を綺麗にしてあげたいという気持ちは当然出てきますが、ここは本人が不安にならないよう保護者は冷静に対応することが大事です。
まずは警察や相談機関に連絡をし受診方法について聞いてみましょう。
被害から時間が経っている時:警察や相談窓口行くときは
被害から時間が経っている場合、子どもがどのような状況であったのかをまとめておくと被害申告がスムーズになり、二次的被害の軽減に繋がります。お子さんが被害状況を話してくれそうな様子があれば、スマートフォンにある録音機能をつかって、話しを記録しておくことも有効です。
また被害の可能性を感じたり、本人から告白があってからで良いので、「いつ・どこで・だれが・何を(どんなこと)」があったのか、親目線で構わないのでメモを残しておくことも大事です。
また、子どもの性被害は「非親告罪」(被害者本人に代わり保護者などが被害申告をすることで起訴できる)です。警察への被害届を出す際にかならず被害者本人といかなければならないわけではありませんので、まずはワンストップセンターや警察に相談の上、出来る限り被害者本人の負担をかけない方法で進めるようにしましょう。
大人も専門家に相談できます
お子さまが性被害を受けたことで、親御さんや周囲の大人も大きなショックやストレスを感じることがあります。一人では抱えきれない心境になることもあります。また、どのように今後対処するべきか分からないことがたくさん出てくると想定されます。そんなときも、ご自身の心のケアや、今後の対処すべきことなど、大人でも安心して相談できる態勢が取られています。
<電話相談>
●全国共通の相談番号「#8103(ハートさん)」
●「#8891(はやくワンストップ)」
<SNSによるメッセージを使った相談>
●「親子のための相談LINE」
<お住いの最寄りのワンストップセンター>
●行政が関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(一覧)
※相談時間や、相談方法などが記されています。
まとめ
私たち親ができる最善のことは、家庭での対話や教育を通じて、こどもたちを性被害から守ることです。政府の対策に加えて、私たち自身がこどもたちの声に耳を傾け、困った時にはいつでも専門機関に相談できる環境を整えましょう。安全で健やかな社会を一緒に築いていきましょう。