【犯罪学者 小宮信夫教授監修】「『不審者』にあったら『防犯ブザー』」。本当にこれで大丈夫?

皆さんは、「不審者」という言葉を使ってお子さまと「防犯」について話をしたことはないですか?

「不審者」というキーワードは防犯の話ではメディアでもよく使われますが、

実は「不審者」という言葉が逆に危険を見えづらくしてしまっていることがあります。子どもが正しく自分の身を守れるように、今日は「不審者」に隠された危険について考えてみましょう。

監修者:小宮信夫 先生

「不審者」ってどんな人?

「不審者」は外見で判断できない

皆さんは、「不審者」について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。また、子どもたちにどのように伝えていますか?

■ 怪しい人

■ 周りをきょろきょろしている人

■ サングラスとマスクをつけている人

■ 知らない人

例えばこのようなイメージや説明をしていませんか?

でもこの理解や説明で十分でしょうか?

「不審者」についていざ説明しようとするととても難しいですよね。またそれを子どもに伝えようとすると、多岐に渡り教えることも難しいと気づきます。それは、「不審者」の定義が人によって違うからです。

それに、私がこれまで見てきた子どもが被害者となった事件では、犯罪を犯した人は先ほど挙げたようないかにも怪しい外見の方は少なく、むしろ不審者と思われないようなスーツ姿で清潔感のある外見やあたかも両親の友人を装い信頼できる振る舞いをして子どもたちに近づいていました。

「不審者」という見た目で危険を判断する方法では、子どもたち自身に身を守らせることもとても難しいです。

小宮先生のYoutubeより

私が、全国の小学校で防犯の授業をする際に上の図を用いて「この中に悪い人がいるかわかるかな?」と必ず聞いています。

すると子どもたちの多くがサングラスやマスクを着けた、いかにも怖そうで怪しい雰囲気のイラストを選びます。そして授業の中で「悪い人は外見では分からないんだよ」と説明をすると、授業の最後には見た目に頼らずにちゃんと正しく危険を判断できるようになります。

見た目に頼ってしまうことでの危険については、警察も悪い人は「必ずしもサングラスやマスクを着用しているとは限らない」と注意喚起しています。

もしご家庭でお子さんに危ない人について教えたり、聞かれることがあれば「どんな人かな?」「見た目だけでは分からないよね。」と伝えることが大切です。

知っている人は安心?「不審者≒知らない人」と教えるのも注意

子どもに防犯を伝える現場で、「知らない人について行かない」という言葉もよく耳にします。

子どもに「知らない人について行かない」と教えることは大切ですが、この言葉は「不審者」を「知らない人」と決めつけることであって、注意が必要です。

子どもにとって、名前は知らなくても通学路でよく見かける人や、公園や通学路で何回か会話を交わした人を、「知っている人」という認識になることがあります。では、大人の定義で「知ってい る人」なら安全なのでしょうか。

実際に起きた事件で、2017年3月24日に千葉県松戸市で小学3年生の女児が、当時のPTA会長によって被害に遭った事件は記憶に新しい方も多いかもしれません。

この事件の加害者は、まさに毎日子どもたちが挨拶を交わし、子どもたちの安全を見守る、親から見ても信頼できる人による犯行であったことから、センセーショナルな事件であり、かなりの小学生の保護者に衝撃を与えました。

この事件が特別なのではなく、子どもを狙う悪い人というのは子どもの不信感を解いて近づき犯行を行うため、「知らない人」かどうかで判断をさせてしまうと、逆に「顔見知り」なら安全と油断をさせてしまい、リスクを高めてしまうことがあるのです。

危険と遭遇したとき、防犯グッズは使えるのか?

保護者の方の中には、お子さんの防犯対策として防犯ブザーやGPSで居場所が分かる防犯グッズを持たせていらっしゃる方も多いと思います。

しかし、それらの防犯グッズは子ども自身が危険を理解しなければブザーを鳴らしたり親に連絡するなどの対応はできません。つまり、子ども本人が危険に気付けなければ持っていても意味がないのです。

犯罪者は、子どもをダマして警戒心を解き近づきますので、なかなかその危険に気が付かないことが多くあります。

ここで、実際にあった犯罪から、犯罪者がどのように子どもに近づいたのかを紹介します。

犯罪者A:「子ども用の風邪薬を作るからツバをくれないか。」

Aはこの後、子どもからツバをもらいました。そしてその様子をビデオカメラで撮影し、子どもからもらったツバは家に持ち帰って飲みました。

犯罪者B:「虫歯を見てあげる」

Bは、「虫歯を見てあげる」と言われた子どもに口を大きく開けさせ、その子の舌を舐めました。

これらは実際に子どもがダマされて、犯行が行われてしまいました。大人であればダマされないようなことでも、子どもの中には、Aは「子ども用の風邪薬を作っている良い人」と思うでしょうし、Bは「虫歯を治してくれた良い人」と思う子もいて、危険に気付かないため防犯グッズを使うことなく応じてしまうこともあるのです。そして、当然危険だと思わなけば保護者に伝えることもできないため、親も被害に気が付かなかったという事件も残念ながら多くあるのです。

このように、子どもをダマす言葉を使った声掛けは実に多く、埼玉県警が発表した「子供に対する声かけ事案 令和5年1~12 月」では、甘言・詐言等(子どもをダマす言葉)を使って、近づいてきた事案が2742件中1077件で、どの手段の声掛け事案よりも一番多いことを公表しています。

埼玉県警察本部 生活安全部生活安全総務課:「子供に対する声かけ事案 令和5年1~12 月」より

また、子どもに(ダマす言葉をかけずに)いきなり襲い掛かるパターンでも、子どもは防犯ブザーを押せるとは限りません。

それは、恐怖を感じる場面では、子どもは体が固まってしまい、頭では分かっていても体が動かないということがあるからです。

もちろん、防犯グッズを使って、危機的状況から脱したケースはありますし、身に着けていることで抑止力になることもあるので、防犯グッズを持たせておくことは大切です。しかし大事なことは、どうやって危険を判断するのか、そして持っている防犯グッズをどんな時に使うのかを子どもと一緒に確認、シュミレーションをして慣れておくことが大切です。

「犯罪に遭わない」ための新しい防犯の考え方

子どもを危険から守るのに1番大切なことは、危ない場所に行かない・近づかないことです。

この「危ない場所」というのは、言い換えれば悪い人からみて居心地の良い、犯罪がしやすい場所を指します。

犯罪者は残念ながら世の中に存在します。しかし、闇雲にどんな場所でも犯罪者は子どもを狙っているわけではなく、襲いやすい場所で子どもを狙うのです。

それは周りから見えにくく、犯行が誰からも気づかれずに行える場所で、もし見つかっても逃げやすい逃亡経路が確保され、また出入りが簡単にできる場所であればそこにいても不信感を持たれない、つまり「入りやすく見えにくい場所」です。

例えば、公園への入り口が複数あれば入りやすく、塀や木々で公園内が見えにくくなっていたら、誰にも気づかれずに子どもに近づける危険な場所(悪い人からすると安心な場所)になります。

どのような場所が危険なのかイラストを使ってお子さんと一緒に学べる記事はこちらになります。

危ない場所はどっち? 子どもと学べるイラストクイズにチャレンジ!

「人」はウソをつきますが、「場所」はウソをつきません。危険に近づかないことが1番大切です。危険な場所をお子さんと学んで是非防犯に役立ててください。

まとめ

今回の子どもを守る防犯対策の内容については、以下のポイントを押さえておきましょう。

〈子どもに防犯について教えるときのポイント〉
① 悪い人を見た目で判断させない。
② 防犯グッズは、どんな状況で使うのか事前にシュミレーションをする。
(自分が危機的状況にいることを自覚しないと使えないし、自覚しても体が動かず使 えないこともある。)
 ③ 防犯グッズは適切に使えないことがあるので、危険な場所を理解させ出来る限り近づかないようにする。
④ 危険な場所には、1人で行かない。どうしても1人になるときは、その場所では警戒している素振りを見せたり、その場を素早く離れる。
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小宮信夫

大学教授(専攻:犯罪学)

立正大学文学部社会学科教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。法務省、国連アジア極東犯罪防止研修所などを経て現職。専攻は犯罪学。地域安全マップの考案者であり、現在、全国の自治体や教育委員会などに防犯のアドバイスを行っている。『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)など著書多数。公式サイトは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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