子どものいじめと自殺を防ぐために、今日からできること

子どもたちは、学業、人間関係、SNSなど、大人と同じように様々なプレッシャーにさらされています。親や家族のちょっとした気づきが、子どもたちを守る大きな力になると私は痛感しています。

私はかつて刑事課の初動捜査班に所属し、事件現場で誰よりも早く自殺の現場に駆けつける役割を担っていました。

特に、子どもが亡くなった現場を何度も目の当たりにする中で、自ら命を絶つという選択をしてしまった子どもたちの無念さ、ご遺体と対面する瞬間のご家族の悲しみや絶望の表情は今でも鮮明に心に残っています。

子どもたちの未来のために、今日からできる温かい一歩を、私たちと一緒に踏み出しませんか。

執筆 元警察官 安井かなえ

子どもの自殺者数の増加と深刻化

近年子どもの自殺者数が増加しており、令和6年の小中高生の自殺者数は529人と過去最多と報告されています。[a参照元:厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年中における自殺の状況」より]

特に高校生が多くを占めていますが、中学生や小学生にも広がる深刻な現実です。また、女子の自殺者数が多い傾向にあります。

背景にはいじめや学業の悩み、友人関係、さらにはSNSでのトラブルも関係し、子どもたちの競争意識や孤独感が目立つ傾向にあります。自傷行為による搬送事案数も年々増加しており、状況は非常に深刻です。社会全体がこの現状を知り、早めの対応が鍵となります。

いじめの多様化とネットいじめの急増

いじめには身体的・心理的・ネット上の3つの形があります。特にSNS上でのいじめが近年急増しています。令和5年度の文部科学省の調査では、ネットいじめが 24,678件報告されており、前年度(23,920件)を上回りました。

深刻化する「ネットいじめ」の実態と対策について、文部科学省有識者会議のまとめによると、匿名性から特定困難な誹謗中傷が集中し、被害が短期間で極めて深刻化する特徴があります。

安易な書き込みで子どもが加害者にも被害者にもなりやすく、学校裏サイトなどで個人情報や画像が容易に流出し悪用される危険性も高まっています。

しかし、保護者や学校が子どもの利用実態を十分に把握しきれず、いじめの発見や効果的な対策が困難である点が大きな課題となっています。

いじめを見抜き、子どもを守る

いじめは、どんな子どもにも起こりうる、決して他人事ではない深刻な問題です。

最近では、表立ったいじめだけでなく、周囲には気づきにくい「見えないいじめ」やSNSを通じた陰湿ないじめも増えています。大人が気づかないうちに、子どもが心に傷を負っていることも少なくありません。

子どもたちが安心して日々を過ごせるよう、一人ひとりの大人が注意深く見守り、早期にサインをキャッチし、適切に支えていくことが大切です。ここでは、いじめを見抜き、子どもを守るためにできる具体的なポイントをまとめました。

・子どもの小さなサインを見逃さない

こまめに子どもの様子を観察することが大切です。

学校への行き渋り、食欲不振、夜なかなか寝つけないなど、普段とは違う変化が続けば、何か悩みがあるのかもしれません。「最近どう?」とさらっと声をかけるよう意識してみてください。

私も子どもたちに毎日ひとつ「楽しかったこと」や「困ったことがあったか」を聞くように心がけています。

年頃になるとあまり答えてくれなくなることもありますが、表情や、持ち物や服の状態、傷やアザなどがないか何気なく観察してみましょう。小さなSOSを見逃さず、早めに支えてあげたいですね。

・いじめに気づいたら、学校や専門機関と連携を

変化に気づいたら、放置せず早めに学校へ相談してください。担任やスクールカウンセラーと情報をしっかり共有することが大事です。ただ、現場での対応が思うように進まないこともあります。もし学校が力にならない場合や緊急性が高い場合は、児童相談所やNPOなど、外部の支援先に迷わず連絡しましょう。

また、子ども自身が相談できる機関もあります。例えば、「こどもの人権110番」は、どこからかけても近くの法務局・地方法務局につながり、担当者が相談にのってくれます。子どもが親に話したがらない場合は、子ども自身が悩みを吐き出す場もあることを教えてあげましょう。

こどもの人権110番

フリーダイヤル:0120-007-110

受付時間:平日のみ、午前8時30分から午後5時15分まで

自殺のリスクを減らすために

SNSはいじめを見えにくくし、被害を深刻化させる要因となっています。見知らぬ相手からのメッセージ、仲間外れ、匿名での誹謗中傷など、デジタル空間でのいじめは子どもたちの心に深い傷を残します。こうしたSNS上のトラブルは、表面化しづらく、発見が遅れることも少なくありません。そのため、SNSの特性を理解し、未然防止に重点を置くことが大切です。

・効果的なSNSサポートのコツ

親が一方的にSNSを禁止するのではなく、一緒に使い方やルールを決めましょう。アカウントの設定を見直し、知らない人からのメッセージは返さないよう伝えてください。実際、偽アカウントやなりすましで接触を試みるケースも発生しています。子どものプライバシーを守りつつ、「困ったときは何でも相談してほしい」と話しておきたいですね。

・危険なサインを見逃さない

「死にたい」「消えたい」といった言葉は大きなSOSです。どんなに冗談めいて聞こえても、その気持ちを親が真剣に受け止める姿勢が必要です。

令和6年度こども家庭庁の調査によると、直接的な自殺のほのめかしが39件あり、主に友人、学校、家族がその兆候を感じていたとの報告がありました。

話を最後まで聞き、責めずに「話してくれてありがとう」と受け止めるだけでも、子どもの心が軽くなります。私が関わった事例でも、親の対応ひとつで未然に防げたケースがありました。

・専門家・相談機関の力を借りる

深刻な悩みを抱えていると感じたときは、自己判断せず専門家に相談しましょう。スクールカウンセラー、精神科医、または地域の相談窓口など、選択肢も多いです。24時間対応の「こころのホットライン」なども活用できます。親子で頑張りすぎず、周囲の力を上手に借りてくださいね。

精神科医の先生方は「一人で抱え込まず、早めの受診を」と推奨していますが、現実は必ずしも容易ではありません。

私の経験では、精神科や心療内科の初診予約は、人気のある医療機関ほどすぐに診察を受けるのが難しい状況です。予約待ちが数週間から数ヶ月に及ぶことも珍しくなく、緊急性の高い場合でも迅速な対応が難しい現状があります。

そのため、受診を検討し始めたら、早めに複数の医療機関に問い合わせ、予約状況を確認することが重要です。また、緊急時には、地域の精神保健福祉センターや相談窓口を活用することもおすすめです。

親にこそ知ってほしいこと

いじめやネット被害、自殺リスクについて正しい知識を持つことで、深刻化を防ぐことができます。警視庁の「サイバーセキュリティインフォメーション」では、家庭で役立つルールや注意点がまとめられています。親自身もSNSやオンラインゲームの最新情報を知り、子どもと情報を共有しましょう。新しい知識を家庭みんなで学び、ルール作りに活かすことで、子どもの安心感につながります。


まとめ

・子どもの自殺者数が増加し、その匿名性から深刻化しやすいネットいじめが蔓延

・親は子どもの小さな変化を見逃さず、対話やSNSのルール作りを通じて、いじめの早期発見・予防に努めましょう

・いじめや自殺の兆候を感じたら、学校や専門機関へ速やかに相談を。親自身も正しい知識を学び、外部の情報源を積極的に活用しましょう

親だけで抱え込まず、専門機関を積極的に活用し、社会全体で子どもを守る意識を高めることが何よりも大切です。 子どもたちのために、私たち大人ができることを積み重ね、社会全体で支えていきましょう。

相談窓口一覧

24時間子供SOSダイヤル(文部科学省)

📞フリーダイヤル:0120-0-78310

こどもの人権110番(法務省) 

📞 フリーダイヤル:0120-007-110

いのちSOS

📞 フリーダイヤル:0120-061-338

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安井かなえ

元警察官

小学生と幼稚園児までの3人の子どもの肝っ玉母ちゃん。警察庁外国語技能検定北京語上級を持つ。 交番勤務時代に少年の補導や保護者指導を経験後、刑事課の初動捜査班で事件現場に駆けつける刑事を経て、外事課では語学を活かし外国人への取り調べや犯罪捜査などを行う。 現在は、防犯セミナー講師として企業や市民向けに活動中。 好きな音楽はGLAY。

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